忍たま

□優しい午後のお話
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柔らかな光が降ってきて、この部屋を満たしていく。優しい歌を奏でているのは、私の大事な大事な、愛おしい孫兵。
「ふふ…ジュンコ、左門寝ちゃったよ」
どこか嬉しそうに貴方は笑う。そんな風に、優しく笑うのはきっと、孫兵の膝で安らかな寝息をたてている左門と私の前だけだろう。あ、あと孫兵と同じ学年の子たちや同じ生物委員の人たちの前でもそうなのかしら。
でも、きっと。
「左門…可愛い」
大切な人の髪を撫でて愛おしそうに笑うこの子を、きっとその子たちは知らないわよね。
だって左門を見る目は、何よりも大切なのだと語っているんだもの。この私が嫉妬しちゃうくらいに。
でも、嫉妬よりも愛おしさが勝るだなんて、左門ってばほんと何者かしら。
「ジュンコ?」
あぁ、愛おしいわ。幸せそうな顔して眠るこの子も、誰かを精一杯愛せるようになったこの子も。みんなみんな、私の愛おしい優しい子。
あぁ、暖かいわね、孫兵。優しくて気持ちのいい温度だわ。
「? ジュンコ、散歩に行くのかい?」
するすると彼の首から腕を伝って板張りの床に身を下ろし、左門の頭元にとぐろを巻いて落ち着いた。さぁ、こんな天気のいい日はお昼寝に限るわ。
「ジュンコ、左門の隣だなんてズルいよ」
孫兵が困ったように苦笑する。
何を言ってるの、孫兵。左門少し肌寒そうにしているじゃない。
何かかけてあげるか、抱きしめるくらいしてあげなさいな、男の子でしょう。
「ふふ…僕も眠くなってきたし、寝ようかな」
孫兵も私が何を言っているのか分かったのか、左門の頭の下に自分の腕を枕にして入れて、寝返りをうって横向きになった左門を柔らかく抱きしめた。
あらあら、私には孫兵のほうが羨ましいわ。
「ジュンコ、おやすみなさい」
えぇ、おやすみなさい、孫兵。
「左門…、どんな夢を見ているの? 目が覚めたら、僕にも教えてね」
ふふ、左門はよほど素敵な夢を見ているのね。孫兵は気づいていないだろうけど、貴方の唇、「孫兵」って動いて柔らかく弧を描いたわ。
「おやすみなさい、左門」
孫兵が優しく左門に笑いかけ、彼の額に一つ口づけを落とす。
優しくて暖かな午後の一瞬が、心を満たしていく。
「おやすみなさい…」
静かに寝息をたて始めた貴方たちが私はこんなにも愛おしいわ。
左門、泣き虫な孫兵を見つけてくれてありがとう。
孫兵、優しい左門を見つけてくれてありがとう。
私の愛おしい、優しい大事な子たち。好きよ、大好きよ。
どうか、貴方たちに降る花は、美しく暖かなものでありますように。



優しい午後のお話

(どうかこの子たちに、)(この空気のように優しくて柔らかな夢を)
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