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□愛してる
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私はその日を覚えている

あなたが生まれた日を覚えている

その日もいつもと変わらない太陽光が照りつける暑い日だった



あまり好きではない病院の匂いもたくさん吸ってしまったわ

そんなの気にならないくらい



可愛くて可愛くて

愛しくて愛しくて。


この子のためなら何でも出来ると思った

小さな小さな手を触ったらまだ開かないまぶたを震わして私の指先を握り返した

ふっくらした雪のように真っ白な頬はキスをするだけで唇の跡がついてしまいそうで

長い睫にふわふわとした銀色の髪の毛は私譲りだと思った




「……あなたはどんな瞳で私を見るのかしら」



たくさんの瞳が私を見るけれど
それは全て否定の視線




ああでもきっと
あなたなら

私を愛してくれるはず
私は愛し続けられるはず。




「生まれて来てくれてありがとう、今日からあなたは私の孫で、私はおばあちゃんになるのね」



ふふふ、なんか変な感じ
おばあちゃんて呼ばれるなんてもっとずっと先の話だと思ってたのに

人生何が起こるかわからないわね







「ふふ、可愛い」


小さく欠伸
されど精一杯


「一番人が美しい時はきっと、この世に生まれてくるときと死ぬときなのかもね」



私も少しは美しく生まれてこれたのかしら?





私の指先をさっきからずっと離さない小さな手は
この世で一番私にとって愛しい手


未来、この手がきっと幸せに満ち溢れている温かい手になっていますように






「世界で一番愛してるわ、貴志くん」



まだ開かないその瞳と
早く視線を交わしたい

早く一緒に笑いあいたい






















愛してる
愛してる

世界が
終わるまで。
















(きっといい子に、優しい子になるわ)






 

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