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□もう少しだけこのままで
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「さむいな…」




足跡ひとつない雪道を一人で歩く

学校帰りにいきなり妖怪に追いかけられてだいぶ道をそれてしまった

いつも一緒に帰ってる西村と北本になんて説明すればいいだろうか





一人灰色の空を見上げながら考えていると足元から間抜けな声がした


「なつめ!」



視線をやると、ブタのようなネコが雪道をもぞもぞと進んでいた



「またお前は用心棒の私を差し置いて名前を返したのか、阿呆が!」



「しょうがないだろ、校門を出ようとしたらいきなり追いかけられたんだから」



「追いかけられたとはなんと間抜けな」



「先生の方が間抜けだって」




雪道を必死にかき分けもぞもぞ進む先生の姿は爆笑もんだった



「なつめ!この無礼もの!私を見て笑うとは恥を知れ!!」



先生が俺に飛び付いてネコパンチをくらわしてくる



「いたっ、先生!やめろって…」




「おっ!夏目じゃん」





声のした方を向くと西村と北本がいた
俺は頭が真っ白になるくらい動揺した


俺は二人に何も言わずに帰ってしまった
約束を破ったんだ


なのにこうやって一人で帰っているところを見られてしまった…





「あ、あの…西村、北本!…お、おれ」



「心配したんだぞ夏目!」



「そうだよ、お前いきなり校門出た瞬間、なんかに気付いたように走り出すからさ」



「え………」






ーなんでだ?


西村も北本も俺を怒るどころか笑ってる




「なんでそんなびっくりしたような顔してんだよ」



北本が俺の頭をなでる



「あ、お前まさか俺達が怒ってるとでも思ってたんだろ?」



西村がいたずらっ子のような笑みを向ける



「…ああ、そう…思ってたんだ……ごめん、二人とも」



「何言ってんだ夏目、俺はお前がそんなずるい事する奴だとは思ってないけど?」



北本の言葉にうつむいていた顔をあげる



「何か事情あったんだろ?無理に話そうとしたり、悩まなくていいって。また明日も会えるんだから、そん時言っとこぐらいでいんだよ」




西村が笑顔で言った




「……そうか…ありがとう、西村、北本…」



なんだか照れ臭くて頬が赤くなった
でも、嬉しい…







「ちょっとあんたたち!!」



静かな雪道に凜とした声が響いた




「あん?」



「なんだ?」

西村と北本が目を丸くする
俺も目を丸くして声のした方を見た



眼鏡をかけたセーラー服の女の子が雪に苦戦しながらもこちらに走りよって来る




「はあ、はあ…ちょっと、…何、夏目君いじ、めてん…っのよ!」



息絶え絶えに、西村と北本を睨みながら言う女の子は笹田だった




「はあ?!いじめてねーよ!」



「んなこと誰がするかボケ!」




「ボケとはなによ!だってあなた達、うつむいてる夏目君に向かって怒鳴ってたじゃない!」



笹田も負けじと反論する



「ま、まて笹田!二人は怒鳴ってなんかないし、俺はたまたま下を向いてただけなんだ!」



「な…夏目君」




「そうだよ、笹田の早とちり!」



「たあく笹田って夏目のことになるとすぐ首突っ込むよなー!」



「な、西村!あなた何言って…!」




笹田が顔を真っ赤にして西村に怒鳴る
西村も北本も笑いながら逃げている

三人とも楽しそうだ




「はは…なあ笹田、良かったら一緒に帰らないか?」



大勢の方が楽しいだろう



「あ、は、入っていいの?!」



「もちろん、それに笹田、ありがとな。俺を心配して橋の方から走ってきてくれたんだろ?」


「そっ、そんな…っ(これは天然?!す、末恐ろしいわ夏目君!)」









「ニ゛ャアアアアア!!!!」




「「「ビクッ!!!!」」」





いきなりニャンコ先生が叫んだ
異様な声に三人そろってびくつく



「ど、どうしたんだ先生…て、うわ!」



「あ!!!五組のっ!」



西村が指さして叫ぶ



「い、いつのまに…っ!」



笹田と北本がハモる








そこには嫌がる先生を抱きしめて頬ずりをする多軌の姿があった




「ねこちゃんねこちゃん可愛いねこちゃん〜〜♪」



「にゃんにゃんにゃんにゃんにゃあァアーー!!!!(なつめこいつをどうにかしてくれ)」



「先生動揺しすぎだ…多軌、いつから?」



満面の笑みで先生に頬ずりをする多軌がハッとしたようにこちらを見る





「あ…!夏目くんじゃない、いつからここに?」




こっちが聞いてるんですけどーーー!!!!!(全員)
「ニャニャニャアぁぁぁ!!!!(なつめえええ)」




先生が涙目で俺に訴えかけてくる




「多軌、すまないが先生を放してやってくれ。先生はほめなれてないんだ」



「…ねこちゃん」



悲しそうに見つめる多軌

なんか胸が痛む




「じゃあほめないで抱いててくれるか?」



「!!ええっ!」



咲き誇った花のような笑顔を向けられて嬉しそうにまた抱きしめる多軌


本当に多軌には笑顔が似合う

妖怪を退治できて本当に良かった…





「ニャアアアアア〜!!!(につめのあほおおお)」






………先生

すまない…




後でスルメなんか買ってやるか…(同情)












「!あら田沼くん!」



「おー委員長」



「あなたのクラスのではないけどね」




田沼が俺に手を振って笑顔を向ける





「田沼と多軌も一緒に帰らないか?」



「そうだな、このさいみんなで帰ろう」



北本が賛成してくれた




「いいのか…?入ってしまっても」



「みんなで約束していたんじゃないの?」




田沼と多軌がみんなを見渡す




「そんなの関係ねえって!」



西村が笑って言った



「そうだよ、一緒にみんなで帰ろう」



俺も笑って言った


「私も後から入った身分だけど、一緒に帰りましょ」




笹田は多軌の手をとって笑いかけた





田沼と多軌は笑って、ありがとうと言ってくれた








なんだか遠足みたいだな…
みんなそろって帰るのなんて




「気持ち悪いぞ夏目」



「田沼」



「何にやけてんだよ」



「はは……なんか、楽しくてつい」




田沼は何も言わず、俺の頭をからかうようになでてくれた









「貴志くーーん!」



遠くの方から声がした
視線をやると買い物帰りの塔子さんがいた




「いいわね、楽しそうで!」



「あ、塔子さん!荷物を持つの手伝いましょうか」



「いいわよそんな!貴志くんはみんなとゆっくり帰ってらっしゃい」



塔子さんが笑って手を振る





「ま、待って下さい!」




「?」



笹田が塔子さんを呼び止めた




「私たち、手伝います!いや、手伝わせてください」



「あれ?夏目のおばさんか?」


「ああそうだよ」
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