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□一瞬の愛
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幼い頃から時々、変なものを見た
それは
妖怪と呼ばれるものの類。


小さい頃はバカ正直だった為、俺は嫌われものだった




「窓の外に女の人がいるよ」



「いないよ嘘つき」



「何でそんなことを言うのよ、気味が悪い」



「もうやだ、こいつといると怖い」















他人からしてみればそう思えて当然なのかもな
人は自分が見えないものに対しては信じにくいから


だから俺は親戚中をたらい回しにされてたんだ



まあどこに行っても同じような扱い方だったが…




でもな


うっすらだけど
覚えていることがある



その人たちにとっては義理や同情かもしれないが
俺は嬉しかったんだ









「貴志くん、飴あげる!」



「ご飯もっと食べる?」



「学校来るの遅かったじゃない、心配したんですよ」












嫌な記憶ばかりじゃない

俺のことを哀れに思ってくれた人たちの優しさに何回か触れたことはあった

でも優しいから結局泣かせてしまうんだ



小さい頃の俺は
嘘つきと呼ばれることはあっても
平穏に生きる嘘をつくやり方がわからなかったから










平穏に生きる嘘を覚えた今

俺の周りは幸せでいっぱいだ



クラスメートだって仲良くしてくれるし
引き取ってくれた義父義母も優しい人たちだし

同じような立場にいる人だっている





幸せな空気に満ち溢れている今を俺は守りたい
でも時々怖くなるんだ

俺の全てを知ったらまた昔のようになってしまうんじゃないか……




俺は弱い
俺は弱いから
人の優しさ、妖怪の優しさにすぐ甘えてしまうから





一瞬の愛でもいい
俺はこの瞬間だけでも
満たされていたい



暖かい場所で
大切な人たちと笑っていたい


















たとえ儚く散ると思えど











(求めていても、いいですか)



 

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