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□せめて、夢の中だけは
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「さて、…そろそろ時間、ですかね。」

え…、もう?

「…そんな顔をしないでください、武。」

…そんなかおって、どんなの?

「とても、寂しそうな顔です。」
あんたが、そうさせてんだよ。

「知っていますよ。…だから、どうしたらいいのか、迷っています。」

おれといっしょに、かえればいいんだ。



そのために、毎日会いに来てるんだから。
ああ、そうだ。


おれはまいにちここにきてる。


けれど、毎日来ても、最後の言葉はいつも同じ。



「それは、出来ません。」

なんで?あんたが、みんなにひでぇことしたから?

「ええ、それも一つありますね。けれど、それより大切な事があります。」

…なに?

「それを望むには、まだ早いから、ですよ。」





おれを宥めるみたいに、あの人は優しい声で言った。何回聞いても、変わらない、心地のいい声。




「…むくろ…、っ…」

「ああ、やはり今日もお別れですね…。」



やっと響いたおれの声は、あの人の名前を意味する言葉の形をしていたけど、あの人の存在を留めることは出来ないらしい。



「いやだ、むく…」

「また、…会いましょう。武…」




あの人が紡いだ名前は、自分のもんじゃねぇみたいに、綺麗に響いた。







―――――――




ちかちか、目の前がちかちか、する。
…あ、親父、仕出しいくんだな…。聞き慣れた車の音がして、もう朝なんだってあらためて感じた。


それを理解すると完全に目が覚めて、もぞもぞとベッドの中で身動き。



(あったけー。)



自分の体温であったまった布団で身体を包み、自然と手に触れてた毛布を握った。



(あ、れ?)



指先に触れた感覚が予想と違って、驚いて目を開けたら、
そこだけ周りの布より色が濃くなってて、湿っていた。



「…なんで濡れてんだ…?」



慌てて体を起こしたら、ほっぺに当たった風が、妙に冷たくてびっくり、した。





――――――


夢だけでも、あんたに会えたら。


なんて、



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