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□甘い痺れに夢中、なお題20題
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あんたが、オレの






ステラ






冬の校内は寒い。

暖房が聞いている教室はまだしも、廊下に一歩出れば思わず身震いしてしまうような寒さだ。

そして、夕方。
部活が終わって教室に戻る頃にはすっかりそのなけなしの暖かさもどこかへ逃げてしまっているのだ。

「……さみー…」


ポケットに手を突っ込んで首に巻いたマフラーに顔を埋めつつ独り言を一つ。
山本はこの年齢にしては大きめな身体を縮こめて呟くと、もう暗くなった外を眺めた。


「うわ、真っ暗だ」


ボールが見えないという理由から早めに切り上げたにも関わらず、薄暗いと言える範囲を越えた風景にぱちりと瞳を瞬かせるとゆっくりとした足取りで窓際に歩みを進める。


ポケットから手を出して窓に付けるとひんやりとした感覚が伝わって、冬だなぁ、なんて今更だけど感じた。
窓に近寄ればさっきよりもはっきりとした形が薄くも見て取れて瞳を細め、唇から細く吐息を吐き出す。周りよりもあったかい、自分の体内から吐き出されたそれは白い形を作ったので、面白くて少し笑った。




「…何してるの。」

「あ、終わった?」



そのまま眺めてたら、後から掛けられた声が耳を打って、振り向いたら教室のドアのとこに真っ黒い中に顔だけが白いっていう、話だけならホラーな感じの(実際そんなことないけど)人影があって、眉間に皺を寄せたヒバリがこっちを見ていた。



「君、…ほんとに人の話を聞いてる?」

「うん、ちゃんと聞いてる。」

「じゃあ質問に答えなよ。」



何してるの、ともう一度ヒバリが唇から言葉を紡いだら、俺のと同じように白い形が吐き出されたから、どうにも可笑しくなって笑った。
案の定、ヒバリは眉間の皺を更に深くして唇をへの字に曲げたからあちゃーって思って、肩を竦めてみる。



「ヒバリを待ってたのな。」

「それは分かってる。なんで外見てたの?何か面白いものでもあった?」

「んー、あんまり。真っ暗だから、薄くしか見えねーの」


こっちに足音を響かせて向かってくるヒバリに背を向けてまた外に視線をやる。そうしたら、隣に並んだヒバリの存在感、みたいなものが伝わって何となく安心した。気付かれないように小さく息を吐いた。


「なら、なんで見てるの。」

「…なんでだろ。分かんねーや」

怪訝そうなヒバリの顔に向かって笑うと、ヒバリはため息を吐いた。見慣れたその仕草にも思わず顔が緩む。
次の瞬間、ほっぺたにほんのり暖かさが伝わった。それが、ヒバリのてのひらをだってことに気付くまで、少し時間がかかった。



「…ヒバリのが暖かいなんて、珍しー…」

「僕が暖かいんじゃなくて君が冷たいんだよ。どのくらいここに居たの」

「あー、部活終わってからだから…んー、…」

「…もういい。」



いつもより暖かい手が、滑らかに頬を滑る。細くて白い、けどしっかりしたヒバリの指が頬を摘んだから、マヌケな顔をしているだろうオレはわざと顔をしかめてみた。
そしたら仏頂面してたヒバリの顔が少しだけど確実に笑ったから、嬉しくなってオレも笑った。


すぐにヒバリの手は離れて、オレにくるりと背を向ける。(コート着てるから、いつもみたいに学ランが翻ったりはしない)



「…帰るよ。」

「ん。あ、ちょっと待って。」



予想していた言葉に頷いたけど、手元に鞄がないことに気付いて慌てて席に戻って、大きくて重いスポーツバックと、反対に中身がからっぽの学校指定の鞄を持つ。

準備しながらだけどちらっとヒバリのほうを見たら、立ち止まって待っててくれて、なんだか嬉しくなったからまた下を向いて一人で小さく笑った。

慌てて準備を終わらせて顔を上げたら、ヒバリと目が合った。笑いかける前にまた背を向けて先に歩き出した背中に瞬きをひとつ。でもすぐにその後を追い掛けた。


「なー、ヒバリー」

「…なに。」

「あれって一番星かな。」




廊下を肩を並べて歩いてたら、窓越しに明るく輝く一つの星を見付けた。立ち止まって指差してヒバリに聞いたら、ヒバリは一度視線をやって、すぐにまた歩き出した。


「今の時間にあんなにはっきり見えてるんだから、違うでしょ。」

「あー、なるほどなー…」



言われてみれば納得出来ることだったけど、もう一回星に視線をやった。
暗闇の中に一つだけ明るく輝く星は、ちょっとだけ、さっきのヒバリを連想させた。



「…まあ、君がそう思いたいならそれもありかもね。」



前から小さくてもはっきりと聞こえた声に、思わず視線をやったら、こっちを振り向いてたヒバリが笑ってたから、



「…おう!そーだよな!」



もう一度笑って、先を歩く真っ黒い後ろ姿の星に追いつくために、後を追った。





―――――――

(手を伸ばしたら、届きそうで届かない、お星さま)
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