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□声、届いていますか
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部屋の中の状態を一言で表すなら
『酷い』という言葉であろう。
元は他の部屋と変わらぬ調度品が設えてあった筈の中は、台風が通り過ぎた後かと思えるほどに混沌としており、床には元花瓶の残骸が。
唯一ベッドの周りが荒らされて居ないことが気遣いであるようだ。
そのベッドに横たわる恋人は、普段の鋭い眼差しを閉ざして眠りについている。
何も考えずに大声を上げて入ってしまった己にとっては後の祭りだが、思わず口許を手で覆い隠し自制する。
それでも余程具合が悪いのか、気配に敏感な筈の彼は小さく呻いて寝返りを打つだけで、目を覚ました気配はない。
ほっと気持ちを落ち着かせつつベッドの脇へと歩み寄り、椅子は見当たらないので床に膝を付けてベッドを覗き込む。(きっと椅子も戦争に巻き込まれたんだなー)
『…スクアーロー…』
小さな声で名を呼びつつゆっくりと手を伸ばし、冬の神様に好かれでもしたのか、綺麗な白銀の髪へと指を触れさせる。
手触りは良好だ。
(とりあえず大丈夫そうだな。)
快方に向かっていることを確かめると改めて相手の顔へと視線を向ける。
普段は鋭くきつい光を宿している瞳は閉じられ、そのせいなのだろうか心なしか和らいだ表情にも見える。
一つ一つ整ったパーツで出来上がっているその顔を眺めながら、髪に触れた手で頭を撫でる。
(…やっぱり、キレイなのな。)
普段からの感想に改めて納得しつつ小さく吐息を吐き出して、口許を緩めればぴくりと動いた片眉を見逃す筈もなく。
『…そろそろ寝た振りすんのも終わりじゃね?』
どこか悪戯めかして紡げば、億劫だといった様子でゆっくりと瞼を上げた相手に自然と笑みがこぼれ落ち。
『おはよー、スクアーロ。』
「…」
寝起きの相手に笑って紡ぐもそれに返されるのは色素の薄い瞳による視線だけ。
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