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□残像は鮮やかに甦る
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引き金を引いた瞬間、手にはなんの感覚もないままに目の前に紅が広がる。
それは、美しい花に似た命の色だ。

(ああ、きれいだなぁ)


そうして、しばし頭の中でその色を眺め、愛でる。すぐに散り失せるその色を、自分の中に留めておくことはとても難しいからだ。うかうかしていれば、すぐに色褪せ只の趣味の悪い色の液体に成り下がってしまう。
けれども、それも脳内でだけの話だ。現実は、そんな猶予をくれるほど優しくない。


人の命を奪う業に長けた山本の身体は、自分の身に迫る危険を察知し反射的に掌の中の小さくも凶悪な鉄の塊を握り締めて撃鉄を起こし次なる標的の頭部へと塊から発射されるこれまた凶悪な威力を持った小さな銀色が発射される穴を向けた。
だが、引き金に添えられた武骨な指が動くことはなかった。


その、コンマ数秒前に、再び鮮やかに咲く命の証が、石畳を染め上げたから。






――――――――


(気持ち悪い、よなぁ…)


数秒前までの壮絶かつ凄惨な仕事場に立ち尽くしながらも、山本は困ったように頭へ手を伸ばして血糊のついたべとつく髪を梳いた。

拳銃はしっかりと役割を果たした。その結果、殲滅にも成功した。


だが、山本が感じている心地の悪さはそこにはない。
普段ならば手に感じている肉の重みも、自らを濡らす生命の液体も、今日はない。
それが気持ち悪いのだ。


全てを無に帰すことが、こんなにも軽く終わってしまうことが。



「君は僕の側の人間だからね、直接噛み殺せないのが不服なんだろう?」




後ろから聞こえた声に振り返れば、雲雀がそこに居た。



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