COSMOS

□リフレイン
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「サーシャ!」
「きゃっ!?カ、カルディア!なんでそんな所から!?」

窓枠に上半身を預ける蠍座に目を見開いて、少女は窓へと駆け寄った。

「誕生日おめでとう。悪いな、一日早くなっちまうが」
「ううん、いいの。ありがとうカルディア!明日からの任務、大変だと思うけれど気をつけてね」
「おう。それでな、祝いの言葉ついでにプレゼントも貰ってくれると嬉しいんだが。黄金聖闘士としての贈り物でなく、オレ個人からの誕生日プレゼントだ」
「まあ!なぁに?」
「じゃあ背中に掴まんな。一先ず天蠍宮に行くぜ」
「ぇ・・・でも・・・、勝手に神殿を離れては怒られてしまうわ・・・」
「大丈夫だって!皆、明日の降誕祭の準備で大忙しだ。お前がいなくなってたって、誰も気付きやしないさ。それに、もしバレても怒られないようにしてやるよ」
「だけど、それじゃあカルディアが・・・」
「前科者だから、逆にお叱りなんざ受けねぇだろ。おいコラ、サーシャ。大事なのは、お前がプレゼント欲しいのか欲しくないのかだ。他の事なんか考えずに、お前が素直に思った事を言えよ!」

ツンツンと額を小突かれて、思わず目を閉じたサーシャだったが、すぐに開くと強い意思の篭った瞳でカルディアへ向き直った。
両腕が伸ばされる。

「欲しいわ。連れてって!」
「よっしゃ!じゃあ攫ってやるよ、お姫様」


祭典の準備に追われていた雑兵は、一瞬視界を金色の流星が掠めたように思い空を見上げたが、広がるのは白い雲の輝く青空ばかりで、不思議に首を傾げながらも作業へと戻るのだった。







+リフレイン+







『今日オフだろ?じゃあちょっと町の方まで下りてみたらどうだ。お昼前に橋の辺り、何かイイモンでも落ちてるかもしれないぜ?あ、そうだ。ある程度はちゃんとした格好して行けよー』

突然訪ねてきたと思ったら、それだけ言って帰ってしまった後輩。
何だとは思いつつも、意味深な笑みが気になって、言われたとおり町まで行ってみる事にした。
どうせ何をするでもなかった日だ、散歩で終わったとしても悪くはない。



などと考えていたシジフォスだったが、言われた場所で見つけたものに言葉を失った。

「な・・・っ!?」

・・・・・・最初は、全く気付かなかった。
橋の真ん中で、欄干を背にポツンと佇む少女が一人。
つばの広い淡雪色の帽子と、春の花の印象を与えるピンクのワンピースを着て、肩甲骨の高さに揺れる金糸の髪が日差しに煌めいていた。
伏せられた顔は帽子の陰に隠れて見えないが、齢が十になったかどうかという幼い体躯と、人待ちをしているらしい様子が少女の可憐さを際立たせている。
あんな子供が一人では危ないだろうと、自分のよく見知った少女と重ね合わせて心配をしたシジフォスは、一声警告をしておこうと彼女へ歩み寄り、次の瞬間、硬直した。

人の気配に気付いて顔を上げ、シジフォスを見止めた途端にパッと輝いた顔は、まさに今、彼の頭の中に浮かべられていた少女と同じ物だったのだ。

「アテ・・・!!」

叫び声を上げかけて、慌てて口を塞ぐ。
人通りの多い中で高らかに呼ばわる名ではない。

「サーシャ様!その御髪は一体・・・いえ。その格好は・・・ではなく!何故このような場所に!?」
「カルディアが連れて来てくれたの」
「カルディア!あいつまた・・・!」
「彼は何も悪くないわ!誕生日プレゼントをくれると。その内容を聞いた上で、私が欲しいと言ったの!」
「プレゼント?」
「・・・シジフォスを呼び出すから、一日デートをしておいで、って・・・。アテナじゃなく、ただのサーシャとして町を歩けるように、髪もすぐに落ちる染料で染めてくれて・・・っ!」

スカートの布地を握り締めて、今にも泣いてしまいそうな顔で訴える。
シジフォスがこの顔に弱い事、こうなってしまっては説教など霧散させるしかなくなる事を、彼女は知らない。

「はあ・・・。わかりました。カルディアには後で話をしますが、全てはアテナを思う気持ちがあってこそ、という事で、責任を問いは致しません」

心の底からホッとしたように頬を緩ませられては、シジフォスが思わず笑みを浮かべてしまうのも仕様のない事である。

「月が昇りきるまでに戻らねばご不在が知れてしまうでしょうから、それまでの時間ではありますが、私でよろしければエスコートをさせて下さい」

屈み込み、手を差し伸べれば、先ほどよりも泣きそうな目をしたサーシャの手が重ねられる。
腕を引いて立ち上がると、動きに合わせてレースの裾がふわりと揺れた。

「ありがとう、シジフォス。・・・それで・・・あの・・・・・・」
「はい?」

優しい笑みに見下ろされ、つい緊張を高めてしまったサーシャだが、カルディアの激励を思い出して、勇気を振り絞った。

「・・・今は、女神じゃないから・・・・・・、サ、サーシャ、って・・・呼んで欲しいの・・・///」

恥ずかしそうに頬を染めながら発された言葉に、射手座の黄金の矢以上の力でシジフォスの胸が射抜かれた事を、これまた彼女は知る由もない。




◆◇◆
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