FIAMMA

□Three kinds of tones
1ページ/11ページ

あれは、中学一年の秋。
並盛中学音楽祭の時だった。

「えっ!伴奏者が熱で欠席!?」

電話連絡を受けた担任から欠席の報を伝えられ、クラスは騒然となった。
各学年に一つ与えられた賞を目指して、この一ヵ月半、練習に練習を重ねて迎えた当日。
それなのに、肝心の伴奏者がいないとは、大問題だ。
いきなりアカペラで歌えるわけもなく、このままでは全ての努力が無駄になってしまう。

「どうしよう・・・。せっかく頑張ってきたのに・・・」
「やっぱり、伴奏なしでやってみようよ」
「ムリに決まってるじゃん!アカペラ用に作られた曲じゃないんだもの。ピアノが無いと全然キマらないよっ」
「あー、どうしよう!!」

女子たちが叫びを上げる中、小さな声が上がった。

「あれ?そういえば、獄寺君って、ピアノ弾けたよね?」

その声に、一斉に視線が集まる。
ダメツナと呼ばれる少年は、突然の皆の動きに驚いた顔をしている。

「おい、ダメツナ!それ本当か!?」
「え・・・っと、確か、弾けるって言ってたような、気が・・・」
「獄寺君は!?」
「まだ、来てない・・・」
「それじゃダメじゃん・・・・・・」
「あー、もう。誰か連絡つかないのかよ」

再び全員が落胆する。
そこへ。

「おはようございます、十代目!」

元気な声音に、皆して振り返った。

「獄寺(君)!!」

いきなりクラス全員から呼ばれ、少し驚愕を浮かべる獄寺。

「獄寺君、お願いがあるんだけど」
「はい!十代目の頼みとあらば!!」
「ピアノ伴奏の子が、熱で休んじゃったらしいんだ。だから、コレ、弾いてくれないかな?」
「・・・・・・ピアノ、っスか・・・・・・」
「嫌な思い出があるのは知ってる。けど、他の誰も弾けないんだ。だから・・・」
「わかり、ました。頭に叩き込んでくるんで、少し一人にさせて下さい」
「うん。よろしくお願いします」

そして、声だけのリハーサルを終えた後、ステージ本番。

「お待たせしました」
「大丈夫?」
「はい。いけます」

放送担当の生徒が、クラスと曲名を発表し、欠席により伴奏者が変わった事を告げる。
ステージに並ぶ生徒。
定位置につく指揮者。
タクトの合図に合わせて、獄寺は前奏を奏で始めた。
元の伴奏者よりも数段上手いピアノに、思わず声が揺らぎかける生徒たち。
彼のピアノは、一介の中学校で奏でられるにはあまりにも不釣合いな響きを持っていた。
歌いながら、これなら体調を崩した演奏でも前衛的だと褒め称えられるわけだ、と綱吉は思うのだった。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ