FIAMMA

□±ゼロ
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+±ゼロ+


「・・・ん・・・っ」

肌寒さに目が覚めた。
重い瞼を無理矢理開けば、剥き出しの肩からシーツがずり落ちていた。
軽く身を震わせて引き上げる。
だが、初冬の気温で既に冷やされていたらしい体は、なかなか温まらない。

「・・・さみぃ」

熱を求める身体。
必然、すぐ傍にある温もりに縋りついてしまう。

「・・・・・・・・・・・・」

隣で静かな寝息を立てている男、山本武。
ほんの少しだけ迷って、体をすり寄せた。
こういうところ、昔と比べて随分素直になったものだと、自他共に認めている。
十年前は、周囲の全てに警戒を張り巡らせていて。
そこへ十代目が現れて、色んな奴が俺を囲んでいって、・・・コイツが、加わって・・・・・・。
初めは、嫌だった。
いくら威嚇しても笑い流されたり、馴れ馴れしく触れてきたり。
何より嫌ってたのは、裏の世界の事なんて何も知らないくせに手を出してくる性格。
常識では在り得ない戦いに巻き込まれて、何度も何度も酷い怪我を負ったのに、飄々と笑ってまた俺に触れてくる。
いくら経っても学習しない。
馬鹿だと思ってた。

なのに、本当は違っていた。
段々と己を絡め取ろうとする闇を、全て理解した上で受け入れていたのだ。
知った時は、猛烈に怒った。
夢を追って生きる事が出来たというのに、わざわざ暗黒に踏み込んで来るなんて。
知らないフリをして離れる事なんて、容易に出来ただろうに、と。
それはもう、涙が零れそうになるほど怒った。
確か、中学校の卒業式の後だったか。
肩を震わせて俯いた俺に、コイツは言ったのだ。


『サンキューな、獄寺。・・・お前が、俺を嫌がるその奥で本当は俺の事を心配してくれてるのはわかってた。無関係の人間を巻き込めねぇって、遠ざけるために嫌われ役を買って出ちまうような、優しい奴だってのも知ってる』

あの時は見る事が出来なかったけれど、きっとコイツは笑ってた。
いつものような満面の笑みとは違う、俺だけに見せるあの笑顔で。

『そんな獄寺だから、好きになった。・・・・・・ずっと・・・お前が、好きだったんだ』

一緒に連れて行ってくれ。
もう覚悟は決まっているから。
俺はお前と運命を共にする。
そう告げられて、堪えていた雫が頬を伝うのと同時に自分の心が陥落したのを、今でも鮮明に記憶している。
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