COSMOS

□リフレイン
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食事、買い物、ティータイム・・・。
楽しい時間はあっという間に過ぎ、空は色を夕陽の紅に染めている。

「シジフォス。戻る前に・・・最後にアレに一緒に乗って」

指し示すのは、湖面に浮かぶボート。
畔の小屋から、何艘かの小船を貸し出しているようだった。

「いいですよ。乗りましょう、サーシャ」

小屋の戸を開くと、年かさの女主人が二人に微笑んだ。

「いらっしゃい」
「ボートを一艘頼めるか?」
「ええ、大丈夫ですよ。お時間は?」
「30分、ぐらいかな・・・」

空の加減を見て答えたシジフォスに、サーシャも頷く。
本当は一時間でも二時間でもいたいところだが、仕方ない。

「かしこまりました。5番と書かれたボートをお使い下さい。あ、お嬢ちゃん」

呼び止めたサーシャの手に、小さな飴の包みを握らせた。

「お嬢ちゃん可愛いから、オマケよ。素敵なお兄ちゃんね、楽しんでいらっしゃい」
「え・・・、・・・・・・ぁ、はい・・・」
「サーシャ?」
「ぁっ、今行くわ!」

小走りで追いつき、手を導かれて船へと乗り込む。

「気をつけて」
「ええ」

忠告は耳に入っていたのだが、脳内は先ほどの女主人の言葉に支配されていた。
足を踏み出した瞬間の揺れに驚いてバランスを崩してしまう。

「きゃっ!」
「おっと」
「あ、ありがとう、シジフォス・・・」

すっぽりと胸に収まる形で抱きとめられ、様々な恥ずかしさから慌てて離れた。

「ごめんなさい!」
「構いませんよ。さあ、座って下さい。せっかくの時間を無駄にしてしまってはもったいないでしょう?」
「そ、そうよね・・・」

シジフォスの支えを受けて、今度は転ばないようゆっくりと腰を下ろす。
向かい合わせに座ったシジフォスは、オールを取って湖へと漕ぎ出した。
恥ずかしさから俯き続けるサーシャの髪が風に靡いて夕陽に照らされ、毛先までが黄金色に輝いて見える眩しさに、目を細める。

「・・・綺麗ですね」
「え?」
「・・・・・・。夕陽。凄く綺麗な赤色をしている」
「わあ、本当!あんなに真っ赤になってるお日様は初めて見るわ!!」

暫くの間、感動に手を叩いて喜んでいたサーシャだったが、沈み行き、光の力を失っていく夕日を見つめて、そっと手をボートの縁へと下ろした。

「・・・もうじき、今日も終わってしまうのね。少し寂しいけれど・・・、今日はとても楽しい一日だったわ。素敵な誕生日プレゼントをありがとう、シジフォス」
「いいえ。私の方こそ、楽しませていただきましたから」
「・・・・・・・・・ねえ、シジフォス」

逡巡を顔に浮かべて向き合ったサーシャは、意を決して口を開いた。
思い出すのは、カルディアの言葉。

『他の事なんか考えずに、お前が素直に思った事を言えよ!』

彼の真っ直ぐな言葉は、いつも前に踏み出す勇気をくれた。

「シジフォス、・・・私、あなたが好きよ・・・。サーシャとして・・・・・・一人の人の子として、あなたの事を愛しているの・・・!」

秘め続けた想いを吐き出した唇が震える。
いつの間にか握り締めていた両拳は、力の抜き方を忘れてしまったように動かない。
自分が呼吸をしているのかさえ認識できないほど、頭の中はぐるぐると回り、沸き立っていた。
硬直して動けないサーシャを見つめていたシジフォスは、瞼を伏せる。
その仕草に金縛りは解けたが、笑みが乗っていなかった事に、サーシャは再び俯いた。
今度は恥ずかしさだけでなく、しまったという思いや、どうしようという不安が混乱していた。
もう、目も合わせられない。
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