ミステリアスパニック!

□09
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科学省にて。


(あっ、光博士みっけ!)




私はフロントで私を待ってくれていた光博士を見つけたので、たたたっと駆け寄っていく。




「こんにちはー!」

「やあ、こんにちはイヴちゃん。それじゃ、荷物はフロントに預けて検査室に向かってくれ」

「はーい!」




言われた通り、リュックをフロントのお姉さんに渡して建物の奥へと進んでいく。

この1ヶ月、週に5回のペースで同じことを繰り返しているので検査室の場所なんてすぐに覚えてしまった。だから、すいすいと迷う事なく検査室へと向かえる。

その途中、科学省で働く人間とたくさんすれ違う。人間が嫌いなはずなのに、もうほとんど嫌悪感は無かった。
科学省の人間はどこか好感が持てたからだと思う。どうしてだろ、同じ機械好きの血が通ってるからかな? なーんて思ったりもするけど、本当のところは自分でも良く分かっていない。















「それじゃ、この電脳にプラグインして」

「はい。プラグイン!」


しゅん。







【電脳世界視点】








目を閉じて念じるといつもの音がして、次に目を開けるとそこは電脳世界だった。






「コンニチハ、イヴサン!」

「あー、プログラムくんだ!」


「今日モ検査ニイラッシャッタンデスカ、エライデスネー」

「プログラムくんこそ、毎日お疲れさまー!」



そう、ひょっこり現れた緑色のそれはプログラムくん!あっちから挨拶をしてくれたので、私も手を振って笑顔でお話する。




「ねーねー、ずっと不思議に思ってたんだけど。」

「ハイ?何デショウカ…?」



「プログラムくんのこの黄色いハサミって…耳?(ゴクリ)」






「…フッフッフ。良イ質問デスネ、イヴサン。

実ハコレ…『手』ナンデス!!」

「ええええーっ!!!うっそー、これ手だったの!!?」

「驚イタデショウ!!ワタシモ気付イタ時ハビックリシマシタヨ!」

「え?じゃあそれまでプログラムくんもこれが手だって分かってなかったんじゃ…」




<おーいイヴちゃん、そろそろ始めて良いかな?>



「あっ光博士!はい、分かりました。じゃ、また後でねプログラムくん!」

「ハイ、検査ガンバッテクダサイ〜!」



















そして検査は、1時間ほどで終わった。
いまは検査室から出たすぐのところにある休憩所で光博士を待っている。結果が出るまでちょっと時間がかかるんだって。


休憩所でレモンジュースをちゅーっと飲んでいると、思いがけないラッキーが到来。




「あらイヴちゃん、こんにちは」

「! 真辺さん!」


ふと、休憩所を通りかかったピンク色のスーツの真辺さんを発見!
私は思わず真辺さんに駆け寄り、腰あたりにぎゅっと抱きついた。



「わーい真辺さんだぁ!」

「ふふ、甘えんぼさんね。」

「真辺さんだから良いもん!ねえ真辺さん、私、今日すっごいこと発見しちゃったの!」

「へえ!それは凄いわね。どんなこと?」

「えっへへー。プログラムくんのね、黄色いハサミみたいなのあるでしょ?あれって、耳じゃなくて手なんだって!」

「あら、それはびっくりね!私も知らなかったわぁ」




そして真辺さんはお仕事があるから、と言って歩いて行ってしまった。




(ああ、今日はラッキーだ…!)



だって真辺さんとおしゃべりできたもん!いわゆる棚ぼたってやつ。真辺さんはお仕事が忙しくて、なかなか会えるチャンスが無い。

機嫌が良くなってにこにこしていると、検査室のドアが開いて中から光博士が出て来た。




「イヴちゃん、検査結果が出たよ。そこの部屋でお話しようか」

「はーい。」


私は頷き、部屋に入る。

ついにこの1ヶ月間の検査の結果が出るんだ。ちょっとドキドキする。






検査室の中で、椅子に座ってカルテを持った光博士と向かい合う。



「この1ヶ月、検査し続けて分かったことを今から話すよ。まず、イヴちゃんにバトルチップやリカバリーチップは適応されるのか?
答えはノーだ。やっぱりもとが生身の人間で、チップ類は君に適応するように作られていない以上、イヴちゃんがチップを使用するのは無理だったみたいだね」





光博士と、机を挟んで椅子に座り検査結果に耳を傾ける私。




「それから、ウイルスや敵からのチップ攻撃を受けた場合。これは少し辛い検査だったかな…」

「い、いえ、あんまり痛くなかったんで!」



少しばつの悪そうな顔をした光博士を、慌ててフォローする。


確かにあの検査は良く考えるとあんまりよろしくないものだったかもしれない。私に関する検査内容や結果は、基本的に機密事項。だから誰にも言っちゃいけないんだけど…特にこの検査は人権なんたら協会からクレームがきそうだ。


早い話が、ウイルスからの攻撃を私が受けるという実験。ウイルスからの攻撃だけでなく、ネットナビのチップ攻撃も。




「これは被害が出るみたいだったね。電脳世界で攻撃を受けると傷になった部分が粒子化し、現実世界にプラグアウトするとそれ相応の傷となって現れる。
今回の検査ではかなり威力の低い攻撃だったけれども、少し出血してしまっていたし…電脳世界で非常に強い攻撃を受けてプラグアウトすると、かなり危険な状態に陥る可能性もある。」


「………。」


「ああいや、怖がる必要はないさ。君は自分の身を守る方法を知っているし、危ない所にあまり出入りしない限り大丈夫だ。それに、いざとなればプラグアウトして逃げられるじゃないか」

「あ、そっか。危なくなったら逃げちゃえばいいんだ…私の能力って便利」


「うん、それが一番賢い逃げ方だからね。あと、イヴちゃんが所有していた物体は電脳世界にイヴちゃんごと持ち込めるのか?これは可能だったね。生命体でなければ、かつ、質量がイヴちゃん以下であれば可能だった」




こんなものかな。

と言って、光博士は手に持って読み上げていたその書類を机の上にぱさっと置いた。




「いやあ、おかげで色々なことが分かったよ。協力してくれてありがとう、イヴちゃん!」

「いえいえ、私もこれから役立つことが分かって良かったです!ありがとうございました!」



特に、電脳世界において私はネットナビやウイルスの攻撃をしっかりと受けてしまうこと…。これを知れたのはかなり大きかった。
だってもし知らなかったら、どんな危険なことに首を突っ込んでいたか…。やっぱり知る事で、セーブがきくというか。



「それじゃあこれからイヴちゃんは、週に1回の健康診断だけだね。これはネットセイバーとしての義務だから、熱斗や炎山くんと一緒に来ると良いよ」

「わあ、本当!?やったー!」




私が笑顔をはじけさせていると、ガチャリと部屋のドアが開いて誰かが入ってきた。





「すいませーん光博士……って、イヴくんじゃないか!」

「あ、名人さんだー」



そう、部屋に入ってきた人物とは名人さん。白衣(マント?)に眼鏡、そしてどこか不思議なオーラといえば名人さんだ。




「さんはいらないよ、イヴくん。ところで光博士、イヴくんは今からフリーですかね?」




若干冗談っぽく言う名人さんに、光博士も少し笑って頷いた。





「それじゃ、イヴくん、すごーく申し訳無いんだが…ちょっとだけ、僕の仕事を手伝ってくれないかい?どうしても解明できないデータがあってね。君の力を借りたいんだ!…ダメ、かなあ?」

「あ、全然いいですよ!どんな形式ですか?」




席を立って、ぺこっと光博士に頭を下げてから部屋を出て名人さんと一緒に科学省の廊下を歩いていく。
こつ、こつと二人分の靴音が廊下に響いて何だか心地よい。






そしてパソコンがたくさん置いてある部屋に入れてもらい、あるパソコンの画面を見る。



「これなんだけど。」


たくさんのブラウザが重なっていて、色々ツールを試した痕が見られた。うん、かなり難航してるみたい。



「データ内容はだいたい把握出来たんだけど、どういった手法でファイルを解析すれば良いのか分からなくて…。色々試してみたんだけど、どのツールも弾いちゃってさ。」

「…うーん…勘ですけど、Ghost系は試しました?」

「あ、まだやってないな。」


「じゃ、それから試してみましょう。複数の解析ツールを走らせて、ビンゴならファイルが出てくるはずだから」



パソコンのキーボードをカタカタ叩いて操作する。




「なるほど、Ghostは盲点だったな!ありがとうイヴくん!」

「いえいえ、どういたしましてー」



名人さんにぽんっと肩を叩かれ、周りの科学省の人たちからもすごいねーと褒められた。割と、素直に嬉しい。




「イヴくんってまだ12才なんだろ?すごく機械に詳しいんだな!」

「えへ、好きなんです機械が」


「それなら将来は科学省に就職すべきだ!君なら、科学省総出で歓迎するよ!」



わいわいとたくさんの人たちに囲まれて、やたらともてはやされた。なんだかすごく嬉しかった。こんなに褒められることって滅多に無いことだったから、ちょっとくすぐったい気持ち。




(人間に囲まれてるのに…全然いやじゃない。どうしてだろう。)




私を評価してくれて、私を必要としてくれている人がいる。

…だから、私には居場所がある。そう思えるから、嬉しい。小さな幸せを感じる。だからこそ、こっちの世界でも私はやっていける。






(みなさん、ありがとう。)


 

 
科学省の人々に囲まれながら、私は心の中でお礼を呟いた。







 
 
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