ミステリアスパニック!
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「じゃあ、これが今日の分の3000ゼニーだ。無駄使いするんじゃないぞ」
「いえっさー! えへ、行ってらっしゃい炎山!」
にこにこと手を振り、俺を見送るイヴ。
俺も小さく頷き、家を出た。
「あいつが俺の家に来て、もう1ヶ月か…。」
同時に、あいつからすれば異世界にやって来て1ヶ月経ったことになる。
この1ヶ月でイヴに対する様々な義務が、国の役人や科学省、ネット警察の人間で決められた。
まず、あいつの特殊な…電脳世界と現実世界を行き来できるという能力の検査に協力する義務。
こちらの世界の多くの科学者がイヴの事を調べたがっているし、政府に取っても早いところイヴの能力を完全に把握して対応したいからだろう。
そして、むやみに銃を使わないこと。いくら人間が嫌いだからといって、絶対人間に危害を加えてはいけない。まあ当然のことだとは思うが。ちょっとやそっとのことで銃を取り出すあいつの癖はよろしくない。
最後に、あまり人前で電脳世界と現実世界を行き来しないこと。突如として目の前に人間が現れたり消えたりされるのは心臓に良くないだろう。
他にも細かい色々なことが取り決められたが、おおまかにはこんなものだ。
ちなみにイヴは、この義務に対して意外とすんなり受け入れていた。
正直俺は、もっと激しく怒ったり不平を言ったりするかと思っていたんだがそうでもなかったようだ。
「だって良い子にしてないと、炎山ん家に居られないかもしれないもーん!」
そう言って、にっこりとイヴは笑っていたんだ。
「ま、もし何かあったらあんな決まりやぶっちゃうかもだけどー」
「おい、どういう意味だ」
「あはは冗談だよじょーだん!うん、ちゃんと良い子にしてるから!」
「…………。」
「ちょっと炎山。その疑わしい目は何なのよー」
まあ100%信頼は出来ないのだが。
(イヴの失態は、俺の失態に直結する。)
それを理解してる限り、あいつも下手に余計な事はしない。
…と、信じたい。
「…さーてと。」
炎山が仕事に行った後、私は自分の部屋に戻って出かける支度をした。
お気に入りの青いリュックを手にしたまま、ぐるりと一周、部屋を見回す。
この1ヶ月でこの部屋はかなり物が増えた。ぬいぐるみだの、本だの、ミニテーブルだの、小物だの。全部、炎山から貰ったお金で買ったもの。だからひとつひとつ大切に使っている。
目線をリュックに戻し、出かける準備を再開。
「えーと、PETとハンカチとティッシュと銃と…情報、端末……。」
(………ううう。)
最後に手にしたのは、情報端末。
バオン製造工場で、熱斗のPETと私の銃を救出するために犠牲になった情報端末。
あの後私はバオン工場に行き、やっとの思いで見つけだしたもののそれはぬか喜びに過ぎなかった。
なんと、情報端末は完全に壊れてしまっていたのだった。まあ、思いっきり投げつけたから当然っちゃ当然なんだけど…。
それで直そうと思って家に持ち帰って中身を見てみたんだけど、基盤がメチャクチャに壊れてしまっていたから直しようが無かった。炎山に調べてもらっても、この世界のどの電気屋にも同じ基盤は売っていなかったので、情報端末の修理は諦めざるをえなかった。
この時、やっぱりここは異世界なんだなあ…と実感した。
(でも…何かの拍子で直ったりするかもだし。お守り代わりで一応持っとこ)
私はぎゅっと拳を握って、その情報端末もリュックの中につっこんだ。
ごめんねエックス。
もしかしたら、もう二度と、声すら聞けないかもしれない。ごめんなさい、ほんとうにごめんなさい。私が馬鹿なことやらかしたせいで、きっと今頃エックスたちは心配してる。
(でも私は精一杯生きるよ。この世界で、頑張るって決めたから!)
絶対、エックスやゼロやアクセルの居る世界に帰るんだ。
確かめるように、ぎゅっと拳を強く握りしめた。
「…よし。行きますかー!」
私は自分自身を励まし、よいしょっとお気に入りのリュックを背負った。
行き先は、科学省だ。