ミステリアスパニック!

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その後は、炎山に電話して迎えに来て貰うことになった。
なんと炎山が私に貸してくれたPETにはGPS機能がついてるらしく、そこまで車で迎えに行くから待ってろ、と言われたのでいま待っている最中。




「あーあ、もう随分暗くなっちゃった。」



さっきまで、オレンジ色に染まった街並みが凄く綺麗だったのに。そのオレンジ色も消え失せて、今はとてもうす暗いからちょっぴり名残惜しい。



(炎山早く来ないかなー?)



貸してもらっている無機質で何の変哲もないPETを握りしめて、その辺りにあったベンチにすとんと座る。
空を見上げると、ちょっとだけ星が瞬いていた。今日の月は半分だけだなーとか、そういうどうでもいい事ばかり考えていると。




「おや?君は…。」


(え?…私?)



そばから声を掛けられ、そっちの方を振り向く。
するとそこには、白衣(マント?)を着て、眼鏡をかけた若い男の人。え?誰この人?



「やっぱり!君、イヴくんだろ!?」

「あ、え……。」

「…あっ、すまないね紹介が遅れて!僕は『名人』!科学省で働いているんだ。ネット警察にも関わっていて、それで君のことを一方的に知っていたって訳さ!」




焦った様子でそう説明する、名人…さん。
なーんだネット警察絡みの人か。なら、人間だけど安心だね!




「はい、初めまして。イヴ・エルレインです」

「うん、初めまして。光博士から君のことは良く聞いてるよ。いやぁ、それにしても羨ましい能力だなあ。僕も電脳世界と現実世界を自由自在に移動できたら嬉しいんだけどねえ」


はっはっはと笑う名人さんに、不思議と私もつられて笑ってしまう。この人、なんだかあったかいオーラがある。



隣、いいかい?と聞かれたので、どうぞどうぞと言って、名人さんが同じベンチに座る。
名人さんはやっぱり大人の男の人で、私なんかよりも全然背が高かった。そしてどこか不思議なオーラがある…。



「イヴくんはさ、確か…別の世界から来たんだっけ。」



ベンチの横の街頭に光が灯った。ぱっ、と。
暗闇の中だったので、それがちょっと嬉しく感じる。



「はい。こっちは、私の居た世界と全然違ってて…色々とびっくりしました」

「そうかそうか、偉いなぁイヴくんは。
それで、どうだい?この世界は。」


(……えっ)



少し、驚いた。
だって、この世界はどうだーなんて聞いてくる人は初めてだったから。





「どうだい、っていうのは少し難しい質問だったかな。」

「…いえ。えっと……とても、優しい人の多い世界だと思います。嫌いじゃ、無いです。」

「そうか!それなら良かったよ!」

「え?」


「だって、もしイヴくんがこっちの世界を嫌いだったらさ。イヴくんがツラいじゃないか!」




(……ああそっか。分かった。)




この人は、他の人の気持ちになって、話をしてくれるんだ。だから、不思議な…あったかいオーラがあるんだ。
















それからも私と名人さんは、色々な話をした。でもその多くは、どうでも良いことばかり。好きな食べ物とか、好きな季節とか。それでもとっても楽しかったのは、話し相手が名人さんだったからだと思う。

十分ほどして、黒塗りの高級車が急に私たちの前にやって来たかと思うと。
その中から出てきたのは、予想通り炎山だった。




「えーんざーん!!」





私はベンチをガタッと立ち上がり、急いで炎山の元へ駆け寄って行った。



「イヴ、遅くなってすまなかったな。道が混んでいたんだ」

「ううん、ぜんぜんいいよ!お迎えありがと炎山!」


にっこり笑って言うと、炎山ははいはいというように頷いた。そして炎山は、私の隣に居た人物を見る。



「あ、名人さ…」

「さんはいらないよ、炎山くん。」

「…はい、名人。お久しぶりです。もしかして、今までイヴの面倒を見てやってくれていたんですか?」

「ちょっとちょっと炎山、面倒見るってどういうことよ。私子供じゃないんだよー?」




ふくれっ面で言う私に笑いながら、答える名人さん。




「いいや、たまたまこのベンチにイヴくんが座ってるのを見かけてね。お喋りしてただけさ。
それじゃ僕は帰るよ。また会おう、二人とも!」



そして、白衣(マント?)を翻して去っていく名人さん。不思議だけど、あったかい人だったなー…。







「…それじゃ、俺たちも帰るか。」


「うん!」




私たちも、その黒塗りの高級車に乗り込んで帰路につくことにした。うう、やっと帰れる…。今日はなんだか凄く疲れたなー。早く寝なきゃ、疲れがとれなさそうだ。























黒塗りの高級車の中にて。

前部座席には運転手さんが、後部座席には私と炎山が優々と座っていた。
やたらと眠かった私はついに睡魔に負け、やわらかーい高級そうなシートに身を預けて目を閉じると、すぐさまに眠ることができた。ぐう……。







「……きろ、起きろイヴ。おい、着いたぞ。聞いてるか、おい!」

「…すー……。」


「その耳は何のためについている!おーきーろ!!」


「……ほえ?…あー、えんざん…。」



目をこすりながら寝ぼけた声を出すと、

ぱこん!


…頭を叩かれてしまった。



「ううう、なにするのー!」

「フン、お前がいつまで経っても起きないからだ」

「むっ…!……ライカなら、もっと優しく叩いてくれるのに…。」

「は?どういう意味だ?」


「なんでもないですよーだ!」



私はべっと舌を出して、黒塗りの高級車からぴょんっと降りた。炎山もそれに続く。


降りた時に、ちゃんと黒塗り高級車の運転手さんにお礼を言っておいた。炎山の話だと、その運転手さんは炎山の会社の社員さんらしい。

そしてこの高級マンションの最上階にエレベーターで上っていくんだけど、その間はずっと炎山からの質問攻めだった。




「お前、結局あの後どうしたんだ?というか、今気付いたがその足の怪我は何だ。」

「ミスしちゃった!」

「笑顔で言う台詞では無いだろ」


「えっとね、あの後…はね、ダークチップのバオン工場に熱斗と潜入して、アステロイド2体と戦っててピンチだったんだけどライカがクロスフュージョンで助けてくれたの!」




かなり飛ばし飛ばしに説明をしてしまった。だって疲れてるんだもん!



「おおかた理解した。…で、その足の怪我はどこでしたんだ」




チン! とエレベーターが最上階についた音を鳴らし、とりあえず降りて部屋まで向かう。



「たぶんね、アステロイドの攻撃がかすったんだと思う。ちょっと痛かったけど、でも我慢できるレベルだから心配しないで!」



部屋のドアの前で、鍵を開ける炎山。



「大怪我でなくて良かったが…あまり無茶はするなよ?」

「りょーかいであります炎山隊長!」



ぴしっと敬礼してみせ、たたっとドアの開いた家の中に入っていく私。
そんな私を見て、はあ…と深いためいきをつく炎山。




「…おいイヴ、ちゃんと手を洗ってうがいをしろ。」

「あっ、はーい。」



そうだったそうだった!
私は思い出したように洗面台までぱたぱたと走っていった。





 
 
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