ミステリアスパニック!
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<着いたよ、二人とも。ここがバオンの製造工場だ!>
ロックマンにナビゲートしてもらい、ついに私たちは怪しいと踏んだバオンの製造工場にたどり着いた。
「しっかしイヴちゃんすげぇなー。俺ラインスケートだったのに、イヴちゃん普通に走って俺と同じスピードだったもんよ。」
「えへへー、走りには自信あるよ!…それより熱斗、中から誰か出てくるみたい。隠れなきゃ」
がさっと茂みに隠れ、工場の裏口で待ち伏せ。
すると、工場員らしき人間がガチャリとドアを開けて出て来て、そのスキを見て私たちも工場の中に潜入しようと試みる。
「…行くよ、熱斗!」
ぐいっと熱斗の腕を引っ張り、なんとか工場内に潜り込む私。工場の中に入れたところまでは上出来だ。でも気は抜けない、慎重にいかなきゃ。
「うわっととぉ、びっくりしたぁイヴちゃ…もごもごご。」
「シッ!…やばい、誰か来る。」
工場の廊下の壁に背中をつけながら、精神を研ぎ澄ませる。うん、間違いなく次の角を誰かが曲がった。しかもまっすぐこっちに来てる。
それを小声で熱斗に伝えると、熱斗は目を見開いて言った。
「な、なんでそんなの分かんの?足音も何もしてないのに…」
「気配で分かるもんだよ。…ねぇ、隠れるのめんどくさいから撃っちゃって良い?」
そう言って愛銃のスチェッキン・ピストルを上着から出してチャッとトリガーに指をかけてみせると、熱斗はもんのすごい勢いで手を横に振った。
「いやいやいやいやいや!!だめ、絶対だめ!!」
「ちぇー。じゃあ、仕方ないけどどっかに隠れなきゃ」
<あっ、あのゴミ箱はどう!?イヴちゃん!>
熱斗のPETの中のロックマンに言われて、廊下の自販機の横にあったゴミ箱を発見。多分、自販機で買ったジュースの缶とかしか入ってないだろうから、生ゴミポッドよりはぜんぜん綺麗だろう。うん、私たちちっさいし二人でもなんとか入りきれそう。
「よし、あそこ隠れる」
そう言って、出来るだけ音を立てないようにゴミ箱に潜り込む。幸い、そんなにゴミ箱の中は汚くなかった。多少の抵抗はあるものの、覚悟して入ってみると割と平気。
「狭いなぁ」
「ガマンだよ熱斗。…………来たっ!」
コツ、コツ、コツ。
ゴミ箱の穴から見える、人間の足。聞こえる、靴音。やがてその音はゴミ箱の前を通過し、どんどん遠のいて行った。
しかもゴミ箱の横のドアがスライドし、部屋の中から工場員が出てきた。これはチャンス、まだドアの開いている今の内に、この部屋の中に入っちゃおう!
こそっとゴミ箱を出て、そろーりそろーりと開いているドアに向かう。
と、その時。
思いっきり、たまたま通りかかった工場員と目が合った。
「っ…!」
カチャッ!
反射神経ですかさず銃を構える。もちろん、指をトリガーにかけた状態で。
でもそんな私の銃を、熱斗が後ろから押さえてくる。どうしても発砲させない気だ。
「ダメだイヴちゃん!」
「だってっ!!………………あれっ?」
私とばっちり目が合ったのにも関わらず、その工場員はふらふらと私たちをスルー。どう見ても不法侵入者の私を見たはずなのに、全く気にも留めなかったようすだ。
「と、とりあえず中入ろ!」
ひとまず開いていたドアからこそこそっと部屋に入り、スライド式の自動ドアは私と熱斗を部屋に入れてからゆっくりと閉まった。
「……ふう〜〜っ。あ〜怖かったぁ!すごい怖かったよー!」
「でも何とかうまく行ったじゃん!…ん?この部屋、モニター室かな」
熱斗に言われて、部屋の中を見渡してみると。
ふむふむ、確かに部屋の奥には小さいモニターや大きいモニターがいっぱい。どうやら監視カメラからの映像がここに送られてくるみたい。
「…あっ!?熱斗熱斗、これ!!」
私はとあるモニターを見つめ、画面に張り付くようにして見ながら熱斗を呼ぶ。
その画面に映っていたのは。
「これは…ダークチップ!!」
「やっぱり!このバオン製造工場が、ダークチップの出所だったんだ…!」
私たちの推理が当たっていたことに喜びを覚え、同時に緊張感が走る。
「なぁ、それにしてもさイヴちゃん。この工場の人たち、みんなおかしくない?」
「確かに…みんな目がうつろだったよね」
<それにどこか浮ついてて、なんだか麻薬の中毒者みたいだったね>
不審者の私たちを見ても何もしないなんて絶対おかしい。きっとこの工場、何か裏があるに違いない。
「絶対、なにかあるよ。もっと調べよう、熱斗!」
「おう!」
<なら、実際にバオンを製造しているベルトコンベアのある部屋に行こう。さっき、熱斗くんのPETにこの工場のマップのデータをモニターからインストールしておいたから、場所なら分かるよ>
「ありがと、ロックマン! それじゃあナビゲートよろしくね!」
そして私たちは再び廊下に出て、こっそりこっそりとベルトコンベアのあるバオン製造部屋へと向かった。
その部屋に着くと、ロックマンの言う通りベルトコンベアがたくさんあって流れ作業で部品を組み合わせてバオンを造っていた。
「こうやって大量生産してたんだー…。」
ゴウンゴウンと機械音を鳴らしながら機動している工場内を眺めていると、不思議と懐かしいと感じた。
(そういやエックスに抱きついた時、胸のあたりに耳をくっつけたらこんな感じの音がしていたなあ)
人間が一人もいない、ハンターベースにいるレプリロイドの動力炉の音となんだか似てる。
なーんてしみじみと思っていた時。
「ガキ共!! 良くここまで来たな!!」
という人間の男の声が後ろからして、驚いて振り返ると。
少し上のほうに取り付けられたデッキから、不思議な格好をしたつるっぱげの男と、やたらとどう猛そうな獣っぽい男がこっちを見下ろしていた。
(うわあ、なんなのこの人たち!?見るから怪しい!)
「お前らは…犬飼猛雄に西古レイ!?」
「えっ熱斗この人たちと知り合いなの!?」
こんな怪しげな気持ち悪い人たちと、熱斗が知り合いだったなんて…!
「いや、知り合いっていうか、敵だよ敵!こいつらはアステロイドっていう悪い…えーとその、悪い奴をを繰り出してきて…ああもう、とりあえず悪い奴らなんだよ!」
「な、なるほど!悪い奴らなのね!?」
<この工場でダークチップを大量生産させていたのは、お前たちだったんだな!!>
ロックマンがそう叫ぶと、男たちはあくどい笑みを浮かべて肯定した。
「ああそうさ!だが、それを知った所で貴様に勝ち目など無い…!!フラッシュマン、プラグイン!」
「ビーストマン、プラグイン!」
しゅん、と奴らのPETから赤い細い光が放たれて、その辺の機械の電脳に送り込まれる。
「よし、迎えうつぞロックマン!」
<分かったよ熱斗くん!>
「プラグイン! ロックマン.EXE.トランスミッション!」
そして熱斗の青いPETからも、ロックマンがその同じ電脳に送り込まれる。
(よーし、私も!)
と意気込んでいた私に、熱斗が手で制してきた。
(え? ちょっと熱斗、これどういうこと!?)
「イヴちゃん、君はプラグインしちゃだめだ!」
「えっ、なんで!?」
「あいつらは本当に危険な相手なんだ!生身のイヴちゃんを戦わせるだなんて危険すぎて、」
「熱斗っ!私はネットセイバーなんだよ!?それに私が行かなきゃ、2対1のロックマンは確実に不利になる…私が行かなくちゃ!」
「…っ分かってよイヴちゃん!分かるだろ!?」
私の手首をぎゅっと握って、真摯な瞳で訴える熱斗。
私は、言葉が出なかった。
(…え?なに、なによそれ。何が言いたいのよ、熱斗。どういうこと、それって…)
確かに戦いに身を投じるのは危険なことだと思う。でも私はネットセイバーの試験に合格したんだよ。あっちの世界じゃ、エックスたちと一緒にイレギュラーハンターやってたんだよ。
なのに、どうしてそんな風に言うの?
(それって…私をネットセイバーとして認めてくれてない、ってこと……?)
なんだか、すごくショックだった。