ミステリアスパニック!
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カレー屋さんを出たあと、とことこと熱斗と肩を並べて道を歩く。
「へー、熱斗っていっぱい友達が居るんだね」
「うん、最近は妙に人脈広がってさぁ。チャーリーだろ、ディンゴだろ、ジャスミンだろ、あーあとそれから…」
と、楽しそうに新しく知り合った人たちの名前を挙げていく熱斗。
私は友達っていったらハンターベースのレプリロイドたちしか居なかった。友達というか仲間みたいな感じだったけどね。
シティアーベルの住人を始めとした人間は、全然好きになれなかった。
私がたまに買い出しで町へ繰り出すと、遠巻きにひそひそ話をするのだ。
(あれがレプリロイドだらけの中で育った女の子?)(親無しなんですって。)(まあ、オイルでも食べているのかしら?)(あんまり言うと聞こえちゃうわよ。)(でももしハンターベースがあの子を引き取って欲しいって募集かけてたらどうする?)(冗談やめてよ!ウチの子に悪影響だわ、あんな変な環境で育った子なんて…!)
そんな冷たい罵りがいつも聞こえてきた。
心底悔しかったし、持ち合わせの銃で撃ってやろうと何度も思った。それをしなかったのはエックスに良く言い聞かせられていたおかげだった。
人間側から拒否され、ただでさえ親に捨てられた過去を持つ私が人間を恨むようになったのは当然の流れだと思う。
私は人生の中で、人間を好きになることはないだろう。そう思ってた。
(でも、こっちの世界は本当に良い人ばっかり。)
…ま、まあ、最初は変に追っかけられたりしたけど!でもあれは人間じゃなくてネットナビだったしノーカウントで。
レプリロイド一体さえ居ないこの世界。
けど、今私の隣にで楽しそうに喋る熱斗を始めとした周りの人たちのおかげで、何とかやっていけそうな気がしていた。
ふと熱斗がある建物の前で立ち止まった。
ここは…駅?みたいだ。熱斗は電車に乗るのかな?
「あ、俺はこの電車に乗って帰るけど。イヴちゃんは炎山ん家に帰るの?」
「うーん、どうしよっかな…」
ちらっとその辺にあった時計台を見ると、午後2時。
今帰ってもたぶん家で暇だろう。
そう告げると、熱斗のPETの中のロックマンがこう言った。
<じゃあ、イヴちゃんに秋原町を案内してあげたら?熱斗くん>
「おおっ、ロックマンナイス!イヴちゃんに俺の住んでる町を紹介してやるよ!」
「ほんと?わー、ありがとー!」
きゃいきゃいと喜ぶと、熱斗もなんだかとっても嬉しそう。うんうん、仲が良くなるのは良いことだ。たとえそれが人間だとしても、この私の目の前にいる熱斗とならかまわない。そう思えた。
そして駅で切符を買い、電車に乗り込んで熱斗と喋る。
「なんだか人が少ないね。」
「平日だし、通勤ラッシュからも外れてるからなあ」
「つうきんらっしゅ?」
「ああ。仕事しているたっくさんの人たちが、会社からの帰りや行きに一斉に使う時間帯のことだよ。」
「へぇー。面白い言葉があるんだね!」
なーんて楽しい会話もつかのま。
ガタ…ガタ、ガタガタガタ!
「えっ?」
いきなり電車が急加速し出して、車内は一気にパニックに陥った。ガタガタと電車自体が震えてる。ス、スピード出し過ぎ!
「え!?な、なにこれ!?」
「イヴちゃん、だいじょうぶ!!?」
「うん、私は大丈夫。それにしても、どうしてこんな急に加速して…っ、きゃあっ!」
ガタッ!
「イヴちゃん!!」
ぐいっ。
あやうくコケそうになった私の手を引いてくれた熱斗。たすかった…。
「あ、ありがと熱斗…。でもやっぱりこれおかしいよ!もしかして車掌さんに何かあったんじゃ…」
ピリリリリリリリリリ!
<熱斗くん、電話だよ! …ネット警察からだ!>
え、ネット警察から?ネット警察って、真辺さんたちのいるところだよね。
熱斗って、ネット警察と関わりがあったんだ…。
「はいもしもし!…え!?ダークチップが!?…はい、わ、分かりました!俺、やってみる!」
そして電話を切ったかと思うと、私の肩をがしっとつかむ熱斗。
「熱斗?ねぇ、いったい何が…」
「いい、イヴちゃん。危ないから、出来るだけ後ろの方の車両に行ってるんだ。」
覚悟を決めたような熱斗の目は、すごく男らしかったけれど。逆にそれが心配になって聞き返した。
「えっ、熱斗はどうするの!?」
「だいじょうぶ、すぐ戻ってくるから!」
そう言って、安全な後ろの車両に向かおうとする人波に逆らって、前へとずんずん進んでいく熱斗。
「熱斗!!」
私も、すでに人混みの中に消えてしまった熱斗を追いかけるようにして前へ前へと進む。
すると、一人の男の人が私の腕をひっつかんでこう言った。
「お嬢ちゃん、前のほうは脱線した時に危ないよ!」
「うるさい、人間!友達が居るの、邪魔しないで!!」
私はその手を容赦なく払い、構わずに前方へと向かった。
(…これだから人間はきらい。本当に、むかつく所だらけだ!自分のことばっかり考えて、誰かを思う気持ちなんて無いんだ…!)
私はしばらくのあいだ進んで行き、ようやっと最前車両に辿り着いた。
人っこ一人いない、がらんとした車両。ただ、猛スピードに悲鳴をあげている車両のガタガタという嫌な音だけが聞こえてくる。
その車両の更に奥、車掌室の中に見えた熱斗らしき後ろ姿。隣には運転手さんも居るみたいだけど、その運転手さんは凄いパニックに陥ってる。
私はすたすたとそこに向かい、車掌室のドアを開けた。
熱斗はロックマンをこの電車のメインシステムの電脳に送り込んでいるみたいで、PETを片手に持っていた。
「熱斗!」
私に気付くと、ぎょっと目を見開いてびっくりする熱斗。
「イヴちゃん!? 危ないから、後ろの車両に行ってって言ったじゃないか!」
「熱斗を置いて行けないよ!それに私、あんな知らない人間ばっかりの所になんて居たくない!」
「だからって……」
ガタガタッ!
「きゃっ」
「うおおおおっ」
まずい、電車がまた一段とスピードを上げたみたいだ。これ以上熱斗と話していたら、事態が収拾つかなくなるかもしれない。
私はぎゅっとこぶしをにぎりしめ、操縦席のところにあったプラグイン用の穴をしっかり見据えて言い放った。
「プラグ、イン!」
しゅん。
「あ、ちょっとイヴちゃん!! え? あれ? どこに行ったの!?」
そう、私は熱斗に有無を言わさずロックマンと同じようにメインシステムの電脳に私自身をプラグインしたのだった。
そういや熱斗って、私が電脳世界に入れる事知らなかったような…ちょっとビックリさせちゃったかも。まあいい、今は暴走を止めるのが先決だよね。