ミステリアスパニック!
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商店街で、生活用品や数枚の肌着や下着を購入をした。真辺さんにもらったものだけでは少し足りなさそうだったのだ。
それから可愛い柄の青いリュックサックを見つけたのだが、3000ゼニー以上するものだったので涙を呑んで諦めることにした。
残金は、ちょうど半分の1500ゼニーになった。
「わ、もう半分も使っちゃったんだ…」
炎山から貸してもらったPETのキャッシュ画面を見て、ちょっとビックリだったイヴ。
ふと店内の壁時計を見ると、もうすでに昼の12時を過ぎていた。
(どおりでお腹減ったと思ったー。…お昼、何にしようかな?)
ひとまずその店から出て、それなりに人の多い商店街をてくてくと歩く。
(…ああ、人間が多い!)
自然と眉間に皺が寄る。お腹が空いたのも相まって機嫌はあまりよろしくないようだった。
歩いている途中、商店街の中にあるゲームセンターにやたらと人だかりが出来ているのを発見したイヴ。なんだなんだといわんばかりにそこに駆け寄って行く。
その人だかりはおもに少年たちで構成されているようだった。
「すげー、コイツめちゃくちゃ強ぇぞー!!」
「くそう…!! バトルチップ、ロングソード! がんばれガッツマン!」
「へっ、甘ぇな! クサムラシード! これで俺の優勢だぜ!!」
(何してるんだろう?)
「…何かのイベント?」
不思議に思い独り言を呟くと、たまたま隣いた自分と同じくらいの年頃の男の子が力強く頷いて返事をくれた。
「おう!今ここでネットバトルやってるんだけどよ、すげぇ強いヤツが居るんだ!!」
(ネットバトル…。ああ、真辺さんから聞いたっけ。たしかネットナビ同士を戦わせるやつ…)
「ありがと、」
教えてくれた男の子に軽くお礼を言ってから小柄な体を生かしひょいひょいっと人だかりの中をスムーズに進んでいき、最前列に出るイヴ。一番前なら良く見えると思ったからだ。
機械の中での戦っているそのネットバトルの様子はビジョンとなって浮かび上がっていた。戦闘中のナビは、インディアンのような格好で少年らしい姿をしたのが一体と、やたらとゴツくて弱そうなのが一体。
周りの人たちの歓声が無くても、イヴの目にはどっちのナビに勝敗が上がるか明確であった。
「ちくしょー!トーテムポールみたいなんがうぜええええ!!」
「へっ、横ががら空きだぜ!!」
そしてそのインディアンのような姿をしたナビの斧が相手の弱そうなナビにみごとに直撃し、戦いは終了した。
「やったー!俺の勝ちぃ!!」
「ちっくしょー! また負けた!!」
「「「うおおおおすげえええ!!」」」
「「「「強いぜー!!」」」」
見物人たちの歓声も激しく、勝った方の少年を褒め称えている。お店が盛り上がっているのが嬉しいのだろう、店員さんもこころなしかニコニコだ。負けた方のやたらと横幅の広い少年だけはガックリとうなだれていたが。
途中からとはいえ、最前列でその戦いの様子を見ていたイヴは、”ネットバトル”に少し興味を持った。激しくぶつかり合うネットナビ同士の戦いは、どこかイレギュラーハンターの戦う姿に通じるものがあると感じたのだ。
「すごい…。」
ポツリとこぼした言葉は、ネットバトルの機械の中にも聞こえていたのか。
インディアンのような姿をしたそのナビが、イヴに向けて
<サンキューな、可愛いねえちゃん!>
と笑顔で言い放ったのだ、が。かんじんのイヴは未だにバトルの余韻で呆けていたので聞こえていなかったようだった。
【電脳世界視点】
「うへぇ、悲しいぜ…」
肩を落として悲しげに呟くトマホークマンに、オペレーターであるディンゴが電脳世界の一部に画面を出現させ声をかける。
<どうした?トマホークマン>
「あの黒髪で青い目のねえちゃんが”すごい”つってくれたからサンキューって言ったんだけどよ、聞こえてなかったみたいでさぁ」
<あ、ホントだ。可愛いなーあの子…外人かな?>
そう言ってにんまりするディンゴを見かねてか、ガッツマンのオペレーターのデカオも電脳世界に画面を開く。
<ディンゴぉ!!へらへらしてねぇでもう一回ガッツマンと勝負だ!!>
「そうでガッツ!まだ負けた訳じゃないでガッツ!!」
<いや負けただろ。>
「負け惜しみなんて見苦しいぞお前ら!」
「そうだよ、潔く負けを認めた方がきっとモテるよ!」
「そうそう! …………………………って、…え?」
聞き慣れない高い声が後ろから聞こえ、くるりと振り返ったトマホークマンは開いた口がふさがらなかった。
「ええええええ!?に、人間!!?」
「あーっ!この前秋原エリアに居た女の子でガッツ!!」
「えへへー、面白そうだから入ってきちゃった!」
(炎山から『むやみに電脳世界をうろつくな』って言われてるけど、こういうネットバトルの機械みたいな狭い場所だったらあんまり人目につかないし、それにバレないから大丈夫だよね!)
<えっ?なっ…、えええええええぇぇ!!?>
「なっななななんで人間がっ、電脳世界に…!?な、なぁ君。さっきまでそこの最前列にいたねえちゃんだよな!?間違いないよな!?」
「うん、途中からだけどさっきの見てたよ。かっこよかった!」
にっこり笑って言うイヴに、トマホークマンはかあっと顔を赤くする。
「サ、サンキュー!俺さトマホークマンていうんだ。んで、こっちがオペレーターのディンゴ」
<よろしくなっ!>
「私はイヴ。イヴ・エルレインていうの。よろしくね、トマホークマン、ディンゴ!」
そして今度はディンゴもトマホークマンと一緒になって照れくさそうに笑う。
そんな彼らを叱咤したのはガッツマンだ。
「こらお前ら、ニヤニヤしてないでもう一度戦うでガッツ!!」
「うっせーよ負け犬!それにもう昼だろ。ディンゴ達も昼飯食わなきゃだし、ネットバトルはいったん止めようぜ」
というトマホークマンの意見で、ネットバトルはお開きになった。
(あ、そういやまだお昼食べてなかったっけ私…)
自分のお腹を見つめながらそんな事を考えていると、ディンゴが画面から話しかけてきた。
<なぁイヴ、昼飯食った?もしまだなら、俺んとこのカレー屋に来ねえか?>
「えっ、いいの?わーい、行くー!」
((よっしゃぁ!!))
「じゃあ私、プラグアウトするね」
しゅいん。
【現実世界視点】
「うおっ、出てきた!!」
「ただいまー」
のんきに片手を振ってるイヴに対し、目を丸くするディンゴとデカオ。
イヴが現実世界に帰ってきた頃には、先ほどのギャラリーは既に居なかった。みなもう帰ってしまったのだろう。
「と、とりあえず俺達もプラグアウトしようぜデカオ。トマホークマン、プラグアウトだ」
<りょーかい!>
「ガッツマン、プラグアウトするぞ!」
<了解したでガッツ!>
(…ディンゴもデカオも、悪い人じゃなさそうだし…。それにせっかく誘ってくれたんだから断るのもわるいよね。同い年くらいっぽいし、近くにいてもあんまり嫌じゃないし)
「じゃ、行こうぜ。イヴ!」
「…うん!」
「こら、俺達を置いてけぼりにすんじゃねえ!!」
<そうでガッツ!デカオ様を放置するなでガッツ!!>
「あーあーうるせぇな。腹も減ったし、早くマハ壱番に帰るぞ」
そしてディンゴ、デカオ、イヴの三人はマハ壱番を目指したのだった。