ミステリアスパニック!

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真辺に連れられてイヴはネット警察内の客間にやって来た。


真辺のすすめでソファに腰掛けていると、部屋のすみに設置してある簡易キッチンに居た真辺に声をかけられた。



「イヴちゃん、何飲みたい?」

「え、と…なんでもいいです」


「遠慮しなくて良いのよ。じゃあ、オレンジジュースとぶどうジュース、どっちが良い?」

「えっ、オレンジジュースあるの!?………あっ」


「ふふふ、可愛いわぁ。はい、オレンジジュース」

と、恥ずかしそうに顔を赤くしていたイヴにコップに入ったオレンジジュースが手渡される。


「…あ、ありがとうございます…」

「いえいえ。」


ごくごくとオレンジジュースを飲みながら、イヴは自分の横に腰掛けた真辺を見つめた。


(…ピンク、エイリアの色だ……)


そのピンクのスーツが、エイリアのアーマーとかぶって見えて、何だか妙にほっとして。




ほろりと、涙が出た。



「!?あ、あれ……?どうして……」


「…怖かったわね、イヴちゃん。」


ピンク色のスーツに包まれた二の腕が伸びてくる。体をぎゅっと優しく抱きしめられ、ますます涙は止まらなくなった。
人間であれレプリロイドであれ、女性というのはどうしてこうも安心するんだろうとイヴは思った。


(確か、5年前にハンターベースの前でエックスに拾われた時もこんなんだったな…)






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5年前、突然ハンターベースに6,7才の幼い女の子を連れてきたエックスに、職員やハンター達は当然びっくりした。
何故拾ってきたのかと問われるもエックスは、


「だって、入口のところで倒れていたんだ。そのまま放っておくわけにいかないじゃないか」


その少女の肩を抱きながら、平然と答えた。



「あのな、それはお前の仕事じゃないんだ。お前はイレギュラーと戦っていればそれで良いんだよ」

「ゼロ」

「それにそいつはどうするつもりだ?もちろん、すぐに人間の町に返すんだろうな?」


「……いや。それはやめておいたほうが良いと思う」



暗い顔で、エックスは呟いた。逆にゼロは激怒する。



「何でだよ!それに人間が一人もいない、こんなレプリロイドだらけの中でそいつを育てるっていうのか!?寝言は寝て言え!!」


「…ゼロ、見てくれ」



そう言って、エックスは神妙な顔つきでその少女の細い足や肩を見せた。



「……痣?それに、縄か何かで縛っていた跡………。…まさか、虐待か?」


「どうだろう。もしくは、シグマ達にやられたのかもしれない」


「……チッ、むごい事しやがる。おいお前、名前は?」


「…………。」

「なんだ、喋れねぇのか?」



ゼロが不機嫌そうにしていると、青い瞳の少女はこしょこしょとエックスに耳打ちした。



「あれおかしいな、さっきまではちゃんと俺と話せてたよな、イヴ?……え、何?あの赤い人が怖いって?…怒ってるように見える?」

「お、怒ってねぇだろ別に!!」



叫ぶゼロに余計にびくっと怯える少女。その青い瞳が涙でゆらゆら揺れ、ぎゅっとエックスに抱きついた。


「わっ。はは、困ったなぁ〜」


(……このフヌケ野郎!)

「だが、イレギュラーハンターで精一杯な俺達に人間の子供を育てる余裕なんてあるのかよ?」

「大丈夫だ。きっと、何とかなるさ!」

「なんねぇよ!!」



ふだんから真面目なエックスがのんきな事を言うので、思わずゼロはカチンときた。

そこにやってきたのがエイリアだ。



「あら?人だかりが出来てると思ったら…二人とも何言い合ってるの?」

「あ、エイリア!」


「おい聞いてくれよ。このバカが、そのガキ育てるって言ってんだ。お前からも言ってやってくれ」


呆れた顔で言うゼロに、エイリアは口元に指をあてて考える素振りをする。



「そうね。まず、生活用品とか一式買ってあげなきゃね。あとは洋服と、食料と…」


「ああ、その通り……………ってそうじゃねえ!!」

「あら、どうしたのかしら?ゼロ」

「止めさせろって言ってんだよ俺は!…まさかお前もこのガキ育てるのに賛成って言うのか?」


「ええ、別に良いんじゃない?」

「良くねぇだろ!!なんだよ、お前まで頭イカれちまったのか!?」


「酷いよゼロ。それにその良い方だと、僕まで頭がおかしいみたいじゃないか」

「なぁにゼロ。あなた、さっきの見てなかったの?」


エイリアが首をかしげた。



「なんだよ、その”さっきの”って。」

「さっき、その子がパソコンいじってるの皆見てたわよ。しかも凄い速さでどんどん情報を処理してくの。そうね、私にもひけを取らないくらいに」


「な……本当なのか、エックス!?」

「うん、たんたんと操作していた。な、イヴ。」



こくっと頷き、そしてじっとゼロを見つめるイヴ。
その様子は、さながら『私を認めて』と言っているようだった。



「………チッ、俺は知らんからな!」



そして長い金髪をひるがえして去っていくゼロの後ろ姿を見ながら、エックスとエイリアはお互いに笑い合った。




「エイリア、助言してくれてありがとう。助かったよ。」


「どういたしまして。それに私としても、このくらいの腕の子が居てくれたらだいぶ仕事助かるしね。さーて、この子の事、色々考えてあげなきゃ。
……と、その前に。おいで、イヴ…よね?」


「…うん。」

「あら、嬉しい。私には喋ってくれるの?」


「うん。だってさっきの赤いひとみたいに、怖くない…」



素直に頷き、エックスの腕を抜け、エイリアに抱きつくイヴ。



「ふふふ、可愛い。こんな所で働いてる私にとって、本当に”癒し”ね。エックス……あ、もしかして嫉妬してる?」


「な、ななにが?」


「分かりやすいのね。イヴ、取っちゃったから」

「べ、別に!?」


「ふふ、安心して。多分この子が一番なつくのはあなたでしょうから」

「どうして、そんな事分かるんだ?」

「なんとなく。女の勘よ。」



そう言ってイヴを自分の腕から解放し、去って行こうとするエイリア。そんな彼女を、イヴがたどたどしく呼び止める。



「…ぁ、の……エイリア……」

「? なぁに?イヴ」

「……エイリア、は、……なんだか、わたしの…お母さんみたいだね…。」

「まあ、嬉しい。イヴのお母さんと私は似てるの?」


「ううん。私、ここに来るまでのこと、なにも覚えてないから分からないの。でも、なんだかエイリアはお母さんみたいなの」


「…そう。ありがと、イヴ」



最後に笑顔でイヴの頭を優しく撫で、今度こそ去っていったエイリア。







「イヴ。」


後ろからエックスにそう呼ばれ、ぎゅっと抱きしめられるイヴ。

そう、子供や親を持たない(兄弟機として造られたりする事場合もあるが)レプリロイドにとって、イヴのような存在はとても愛らしく大切なもののように思えた。
守りたい、守ってやりたい。そんな存在。



「エックス……。わたし、ここに居て良いの?」

「ああ、良いんだよ」

「わたし、なにも覚えてないんだよ。ただ、ちょっと機械いじりが得意なだけなんだよ」

「それでも良いんだ」

「どうして…」



「君みたいな存在が、俺たちには必要かもしれなかったからさ」




その言葉は、幼いイヴの心に大きく響いた。




「…じゃあ、ぜったい、ぜったいにわたしを捨てないでね。やくそくしてくれる?」



すっと細い小指を出してきて、エックスのそれと絡ませようとするイヴ。



「ああ、約束するよ」

「ぜったいだよ?」

「絶対だ」


「…エックス、大好き!」


小指を絡ませた後、再びエックスの胸に飛び込むイヴ。エックスもその小さい体を受け入れ、そっと背中に手を回した。


ゴゥン…ゴゥン…という、レプリロイド特有の動力炉の音が、エックスと密着したイヴの耳に入ってくる。

不思議と、それはとても落ち着く音で。




イヴは幼いながらに、自分の居場所はここにあるんだと思った。





  


 
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