ミステリアスパニック!
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数十分後。
ひたすら走り続けた結果ヘロヘロになってしまった状態でネット警察のHPに駆け込んできたイヴだったが。
すでに炎山から情報を寄せられ、待ってましたとばかりに待ち伏せしていたネットナビ達に取り押さえられ、あっけなく捕まってしまったのだった。
「はーなーしーてーよー!」
「あばれないでねー」
「はい、おとなしくしてようねー」
「子供扱いしないで!!」
げしっ!
ネット警察のナビに蹴りを食らわせたが、そんな抵抗は何の意味も成さない。
「痛っ!こ、こいつ抵抗するぞ!!」
「もうやだ、なんなのここ!?訳わかんないし!」
イヴは本当に訳が分からなかった。
いきなり知らない所に飛ばされたかと思うと、追っかけられて捕まって、もうさんざんである。
(私が何したっていうの…ほんと、訳わかんない…!)
ぎりっと歯をかみしめていると、聞いたことのある声が降ってきた。
<おい、そこのお前>
再び電脳世界の一部に画面が出現し、そこから炎山の顔が覗く。イヴは炎山を指さし声をあげた。
「あっ、さっきの赤いのの仲間!」
(赤いの……ああ、ブルースの事か)
<仲間じゃない、オペレーターだ>
(オペレーター?エイリアとおなじ、あのオペレーターのことかな?)
<唐突だが、一つお前に試して欲しい事がある。>
「…なに?」
<そこから、プラグアウトしてみろ>
「だからその”ぷらぐいん”とか”ぷらぐあうと”とかって、良く分からないんだけど」
<とりあえず、その世界から抜け出したいと意識してみれば成功するかもしれん。やってみろ>
「…おことわり!何ならずっと”電脳世界”に居たままでもいいし」
<………何故だ。一刻も早く、こっちの世界に帰ってきたいとは思わないのか?>
「ぜんぜん。こっちに居る”なび”の方がレプリロイドみたいで安心するもん。それにそっちの世界は、人間ばっかだし、……とにかくいやなの!」
<…お前の言い分は分かったが、ひとまずこっちの世界に出てきてくれないと色々不都合だ。お前が早く釈放されるためにも、電脳世界から出てきてくれないか?>
早く釈放されるため、という言葉にイヴの心が動きを見せた。
「………じゃあ、とりあえずやってみる。成功するかわかんないけど」
そして自分を取り押さえていたネットナビ達にしっしっと手を払い、彼らが離れたのを確認してからゆっくり目を閉じる。
(あっちの世界に、出ていきたい)
そう念じて、言い放った。
「プラグアウト!」
しゅん。
という、音がして。
次に目を開いた瞬間、そこは何人かの人間が居る研究室のような部屋だった。
(……あ…れ……?)
「おい」
しばらく目をぱちくりさせていたイヴに、炎山が声をかける。
「どうやら成功したようだな」
「……う、ん。ほんとに、出てこれたね…。べんりべんり」
「いや、そんな風に現実世界と電脳世界を行き来できるのはお前ぐらいだ」
「そうなの?」
「ああ。…とりあえず、こっちへ来い」
そう言って先導するように炎山が歩き始めると、警戒するもののとことことついてくるイヴ。
その研究室のようなところを出て、廊下を歩く。自分の少し後ろにちゃんとついてきているイヴに、前を向いたまま静かに問いかける。
「逃げないのか?」
「逃げてほしいの?」
質問で質問を返され、しかもその内容があまりに単純だったため炎山は苦笑した。
さっきまで、電脳世界で暴れまくっていたのとは別人のように、素直に自分の後ろをついてくる。そのギャップに炎山は次のように考えた。
(根は、素直な奴なのかもしれないな)
「いや。ついてきてくれてとても有り難いさ」
「わ、感謝されちゃった」
短く、しかしどこか喜んだようのニュアンスを含む言葉を発したイヴをチラッと振り返り見た後に、…変な奴だな、と炎山は思った。
そしてしばらく歩いたところで、一つの部屋に入った。
「失礼します。例の少女を連れてきました」
「おお、炎山くん。その子かい?」
眼鏡をかけた、優しそうな男性が、にこやかに問いかけた。
「はい。手はず通り、ネット警察のHPで捕獲しました」
(…ちょっとー、捕獲ってなによ)
「そうか。ははは、わざわざ科学省の仕事をほっぽり出して急いでこっちに出向いた甲斐があったよ。
えーと、初めまして。僕は光祐一郎。科学省の人間で、ネット警察にも良く出向いている科学者だ。」
「……は、はじめ…まして…。」
祐一郎の優しげなオーラに当てられて、人間が苦手ではあるが一応ちゃんと挨拶をしたイヴ。
「それで、君の名前は?」
(…そういえば、俺もまだ聞いてなかったな)
「……………。」
「名前が無いわけじゃないだろう?教えてくれないかな」
おだやかで優しい物言いの祐一郎に、イヴは小さな声で言った。
「……イヴ。イヴ・エルレインです。」
やはり外国人か、と炎山と祐一朗は同時に思った。そして日本語が通じるようで安心した。まあ二人ともそれなりに外国語の教養があるので問題無かったかもしれないが。
彼女の青い瞳は、どう考えても日本人のそれでは無かったからだ。
「そうか。じゃあ、イヴちゃんはどこの国から来たの?」
「…シティアーベルの、ハンターベースです」
(”シティアーベル”? 聞いた事無いぞそんな所…)
「うーん、ちょっと僕には分からないな。国名で言ってくれないかい?」
と祐一朗に言われるも、困ったように首を横に振る事しか出来ないイヴ。
「弱ったな…。これじゃあ、彼女の身元が分からない」
「お前、国籍は?」
炎山に問われるも、やはり首を横に振るだけ。
(無国籍だと?)
その部屋に二人の人間がドアを開けて入ってきた。
一人は大きい体格の中年の男の人で、もう一人はまだ若い、ピンク色のスーツを着た女の人だった。
「あ、貴船総監! それに真辺さんも」
「やぁ、遅れてすまなかったね」
「いえ、とんでもない」
「炎山くん、その子が例の女の子かしら?」
尋ねられ、炎山は頷く。
「はい。名前をイヴ・エルレインというそうです」
「そう。私は真辺鈴(まなべれい)、警視よ。そしてこちらはこのネット警察の警視総監、貴船総監。」
「よろしく。貴船誠心だ。」
「…よろしく、です」
これまた、ぎこちない挨拶のイヴ。
「それで、君はどこから来たんだい?」
「それが、先ほど尋ねた所、分からないという事らしくて…」
「分からない? …ふむ、そうか。では、帰る所はあるのかね?」
と貴船総監に尋ねられるも、イヴは悲しそうに首を横に振るだけだった。
「……帰りたいところはあるけど、…たぶん帰れないです」
「では総監、この子はネット警察でいったん身柄を保護…という事で?」
「だな。それに、彼女の能力についても未解明な点も多い事だしな。頼んだよ真辺くん」
「じゃ、イヴちゃん。私と一緒にお部屋に行きましょう?」
にっこりと笑顔で言われ、女の人特有の優しそうな雰囲気に割と素直に頷くイヴ。
「は、はい…」
「そんなにかしこまらなくて良いのよ。私の事は、真辺さんって呼んでね」
そして部屋を出て行く女性陣。
ドアを開けて出て行くその時、イヴが一瞬だけ振り返りって自分と同じ青い目を見つめたのを、炎山は複雑に思った。