ミステリアスパニック!
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俺の名前は伊集院炎山。小学六年生のネットバトラーだ。
12歳の若さにして、IPCという日本で大手のPETメーカーの副社長でもある。仕事が忙しいせいで学校にはあまり行けていない。もっとも高度な教育をされているので小学校レベルの教養などとうにマスターしているので問題は無い。
持ちナビはブルース。高性能で接近戦を得意とする、我ながら優秀なナビだ。
自分でも言うのも何だが俺のネットバトルの腕は全国レベル…いや、世界レベルかもしれない。幾多の大会をブルースと共に勝ち抜いてきた所謂"実力者”に分類されると思っている。
そして俺はその腕を生かし、ネット警察という機関に所属しているネットセイバーでもある。
ちなみに同年代の光熱斗も同じネットセイバーだ。何故か奴は俺に強大なライバル意識を抱いているようだが、俺は正直どうでも良いと感じている。まあ、熱斗のネットバトルの腕は認めているが…。
さて。今日も朝からIPC本社に出勤しなくてはならない。本社近くの高層マンションの部屋を出る。俺が仕事に行きやすいようにと、わざわざ高い金を支払ってこの部屋を与えてくれた父、伊集院秀石IPC社長には感謝している。
なんせ本社まで徒歩5分だからな。立地が良いにも程がある。
三邸に一基とゆとりのあるエレベーターで1階まで降り、横断歩道を一つ渡ればそこはもうIPC本社前のバス停。
今日も我が社の社員がバス停に止まったバスから降りて、そのままぞろぞろと本社の入り口へ歩いていく。
「おはようございます副社長!」
「副社長今日もご苦労さまです!」
「ああ、おはよう」
途中、大勢の社員に頭を下げられるのは割といつもあることだ。なのでこちらも短く挨拶をして、本社ビルまで足を進める。
(…そういえば今日はメールチェックをしなくてはいけなかったな)
ならさっさと副社長室へ行かなくてはと思い、歩く足を少し速めようとした時だった。
「……………何だ、あれは?」
本社前の植え込みの茂みの中に、何か黒いものが見えた。
……どうやら、それは黒い服を着た人間のようだ。黒の合間に肌色が見える。
どう見ても怪しい。
俺は自分の赤いPETを取り出し、中にいるナビに声をかけた。
「…ブルース、あれは何に見える?」
<………植え込みの茂みの中に入っている人間に見えます>
PETの中のブルースも、俺と同じ見解のようだ。
…さて、どうしたものか。植え込みの前で立ちつくしているとブルースが話しかけてきた。
<警察に通報いたしましょうか?>
「いや、IPCの敷地内で問題が起きたとすれば我が社に迷惑がかかるかもしれん。それはやめておこう」
<では、どうなさいます?>
「………とりあえず、声をかけてみるか」
(面倒なことになったな…。)
内心そう毒づきながら、さらに植え込みのほうに近づいていく。
近づくにつれ、その茂みの中に居る人物がまだ子供だということが体格で分かった。
髪の長さからすると、性別は女…なような気がする。顔は地面に突っ伏しているのでこちらからは見えない。
俺は口を開いた。
「おい、そんなところで何をしている。」
「…………う…」
(喋った。)
「聞こえているなら、出てきてくれ」
黒い服を着た黒髪の少女は、ゆっくりと体を起こして…
初めて、こちらに顔を見せた。
一番印象的だったのはその肌の色白さと、俺と同じ青い目をしていたことだった。
「!!」
「…君は何者だ、何故我が社の植え込みの中に?」
何故かその青い目は怯えているようだった。
少女が小さく何かを言う。
「………に、ん…げん………!」
「? すまない、今何と言っ…」
「っ!!」
「うわっ」
その青い目が大きく見開かれた次の瞬間。
植え込みから勢いよく飛び出し、黒髪の少女は俺に背を向けて一目散に走り出した。
「ちょ、ちょっと君!」
引き留めようにも、やたらと足の速い彼女を追いかけることは無謀だと思い、少し走っただけで足を止めた。
やがて小柄なその少女は見えなくなり、俺は一人植え込みの前に残され突っ立っていた。
「………一体何だったんだ?」
<炎山さま、その…朝礼があと5分で始まりますが>
「! …遅れるわけにはいかない、急ぐぞ」
<はっ>
全く、一体あの少女は何の理由であんな植え込みの中で寝ていたのだろうか。
疑問は尽きないが、朝礼に遅れるわけにもいかないので、俺は早足で本社のビルの中へ駆け込んだ。