ミステリアスパニック!
□少女、消える
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「イヴ、ボクと遊ぼうよ」
「いいよ!何して遊ぼっか、アクセル」
「うーん…じゃ、トランプとかどう?」
「おっけー!」
「子供は無邪気で良いな、ゼロ」
「お前は保護者か」
「似たようなもんだよ。そういうゼロだって保護者みたいじゃないか」
「そりゃそうだ。ガキのあいつらは俺達が見張っとかねぇと、何しでかすか分からねえからな」
「はは、ゼロは手厳しいな…。」
ミッション時をのぞく、いつものハンターベースでの日常。
同年代のアクセルとイヴの二人がきゃっきゃっと遊び、それをエックスとゼロが見守る。端から見れば何とも微笑ましい光景である。
ふとアクセルがトランプを持ったまま顔を上げ、口を開いた。
「ね、エックスとゼロも一緒にやらない?」
「ああ。俺もちょうどやりたかったところだ」
「ほんと!?すごーいナイスタイミングだね!」
そう言ってあどけない表情でにこにこ笑うイヴの頭を、ああもう可愛いなあと言わんばかりになでるエックス。
そんなエックスとは対照的に冷静な顔で腕組みして座っていたのはゼロだ。
「……最初に言っておくが、俺は参加しないからな」
「えー!?どうしてさ、ノリ悪いぞゼロ!!」
「ほんとだよ、折角みんなでやろうとしてるのにい。」
アクセルとイヴの猛反論を喰らうが、当の本人は頑として動こうとしない。無愛想なのは顔だけでは無いようだ。
「二人の言う通りだ。たまには息抜きも必要じゃないか。ほら、せっかくだし、な?」
「…………チッ」
エックスに言われ、かなり渋ったあげく腰を上げてトランプの輪の中に入って行くゼロ。
そんなゼロをちらっと横目で見て、イヴはぼそっと毒づいた。
「なーんだ、結局やるんじゃない」
「うるさいチビ」
「な、なにをー!ふん今に見てなさいよ、もう4、5年も経たないうちにもんのすごい”ないすばでー”になってやるんだから!!」
”ないすばでー”という言葉に盛大に吹き出したエックスが、慌てて叫ぶ。
「イヴ、女の子がそんな事言っちゃダメだろ!!何処で覚えてきたんだそんな言葉!」
「つーかよ、意味分かって言ってるのかお前」
「分かってるよー! こ、こう…ボン、キュ、ボン! …みたいな?」
「ああああ、やめてくれイヴ! 俺の中でのイヴのイメージがどんどん崩れてく!!」
頭を抱えるエックスに、アクセルが呆れたような口調で言った。
「エックスー、過保護すぎじゃないの? 別にその位知ってたっていいじゃん」
「アクセル、お前は逆にその点に関して大人すぎだ」
「えっへへ〜。そうかな?」
トランプをぱらぱらめくりながら、思い出したようにエックスが口を開いた。
「ところで、一口にトランプって言っても色々あるよな。何をするんだ?」
「ボクは何でも良いけど…誰か希望ある人、居る?」
「あっ、私スピードやりたーい!」
「アホめ、それは二人用だろ」
ゼロの鋭い指摘にイヴはぷうっと頬を膨らませた。
「ほ、他ないか?」
苦笑しながらエックスは周りを見渡す。
「ここは無難にババ抜きとか?」
「ま、そんなんでいいんじゃない?」
「ちぇー。スピードが良かったのに」
「だから二人用っつってんだろうが、チビ」
「チビじゃないよ! それに私がチビなら、アクセルだってチビでしょ!」
「…何でボクを引き合いに出すの?」
「ああもう皆落ち着くんだ! ゼロもむやみにイヴの事からかったりするのはやめてくれ!」
「……フン」
「つーん」
(あ、イヴが拗ねた)
「早いとこカードを配ってしまおう。ほらアクセル、任せたぞ」
「りょーかいっ」
と、アクセルが手にしていたトランプを配ろうとしていた時だった。
ジリリリリリリリ!
「!」
警報が部屋に鳴り響く。その直後に緊迫した様子のエイリアの姿が、イヴの情報端末に映し出された。
その場に居た全員が、イヴのそれを覗き込む。
「エイリア、どうしたの!?」
<イレギュラーが発生したわ。場所はハンターベースのすぐ近くよ。今回はイレギュラーの数がかなり多いみたいだから、悪いけどイヴも出動してくれる?>
「うん、任せて!」
イヴがいつになく真摯な顔で頷くと、エイリアはそれを確認し、後ろに居たエックス、ゼロ、アクセルの三人にも確認を取ると映像はプツンと切れた。
「じゃあ俺たちは先に格納庫に行ってるから出来るだけ早く来るんだぞ、イヴ」
「了解!」
エックスの言葉にしっかり頷き、自分を除く全員が速やかに退室したのを確認してから服を脱ぐ。
(ひさびさの実戦だ…頑張らなきゃ!)
イヴは5年前、ハンターベースの前に捨てられていた。
当時7歳だった幼い彼女を見つけ、建物内まで運んでくれたのはエックスだった。
もともとお人好しということもあり、エックスはイヴにとって、他のレプリロイドと比べてなつきやすい存在だった。当の本人は最近やってきたアクセルが、同年代なせいかやたらとイヴと仲が良いのを悔しがっているが。
そして拾われた後、人間の住む町に親を探しに行こうという話が出た時。イヴには機械に対する深い知識があることが分かった。同時に情報処理能力もなかなかのものであると認められた。それは、エイリアにも引けをとらない程の技術の高さだった。
かつ、人間があまり好きでないという理由から是非ハンターベースのサポート要員にということで、彼女はハンターベースに暮らしているのだ。
加えて最近はイレギュラーの出現が増えハンターベースが忙しそうなのを見て、イヴは自分自身の体を守るアーマーやオリジナルの銃器を開発しだした。機械いじりが好きな性格が幸いしたのだろうか。
そして「私も戦う」と言い出したのだ。
もちろんエックスを始めとして多くのハンターベースに所属するレプリロイドが反対した。だめだ、人間にイレギュラーハントさせるのはあまりにも危険すぎる、と。
しかしイヴも引き下がらず、ハンターベースのみんなの役に立ちたいという熱い思いを伝え続けた。身を守るアーマーも自分に合わせてしっかりと造られてあったので、致命的なミスでもしない限り命を落とす事はないだろうという見解も増えた。やがて何とか全員を言いくるめることに成功し、人手が足りない時のみという条件のもと、戦闘に参加することになったのだ。
イヴの元からの運動神経が良いのか独自で開発したパーツが素晴らしいのか。彼女の戦闘能力は(ちなみにランクは特A、A、B、Cと階級ごとに分かれているのだが)A級のレプリロイドに負けないほど高く、また戦術性にも長けていた。
人間ながらも、彼女も立派に”イレギュラーハンター”なのだ。
手際良く自分の体にパーツを装着していくイヴ。やはりパーツ特有のゴツゴツした感じが未だに慣れない。
腰元にオリジナルの銃を差し込み、最後に頭を守るためのヘルメットをかぶる。
「…よし、完了!」
そしていそいそと部屋を出て、ライドチェイサーの置いてある格納庫へと向かった。