ミステリアスパニック!

□09
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そして私は名人さんたちにお別れを言って、科学省の建物を出た。

自動ドアがウィーンと音を立ててスライドし、一歩外へ出た時。


ぽつ、ぽつ。






「あれ?雨?」



見上げると、どんよりと暗い雲に空が覆われていた。外出た矢先に雨に降られるなんて…運が悪いなあ、私。



(しかも傘持ってないし。あ〜お家に帰れないじゃん…今日は見たい韓流ドラマがあったのに!)



そう、最近の私の趣味は韓流ドラマを見ること。ちゃーんと毎週見てたら割と面白くってハマってしまった。
だから今日の回もバッチリ見る、つもりだったんだけどな…。


(何で今日に限って雨降るかな…。ああ、結局、ロッテワールドに行った後あの二人はどうなったんだろ。折角彼が海外から帰ってきたっていうのに、なんで記憶喪失になるかな!?あっ、やっぱあのいじわるな女の人がジウの事いじめるために、色々と工作を?悪いやつだ、私だったら一発であんな女銃の的にしてやるのに!あ〜もどかしい!!)


「…雨のばかやろー!」



「おい、何を叫んでいるんだ。」


(………へ?)




まさか、人がいたなんて。突然声をかけられて、思わずフリーズする。

そしておそるおそる声のした方を向くと、そこには緑色のコートの男の人。




「ライカ!?い、いいいつからそこに、」

「お前が一人でうんうん唸ってる時からだ」



深い紺色の傘をさしたライカは、呆れたような目で私を見下ろしている。




「…できれば、見なかったことにしてね。叫んだとことか。ぜったい、他の人に言わないでね!」

「………。」

「約束だよ!」

「…了解した。」


肩をすくめて頷いてくれた。私はひとあんしん。


「はー良かったぁ。あっ、ライカ科学省行くの?」

「いや、通りかかっただけだ。」


「…そ、それなら…えっと、その、ちょこっとお願いがありまして…。」



ちらちらっとライカの紺色の傘を見ながら、もじもじしていると。



「なんだイヴ、傘持ってないのか?」

「………(コクッ)」


「………はぁ。構わん、特に急ぎの用も無い。入れてやる」



さっと傘を傾け、ちょいちょいと私に手招きするライカ。わあ、ライカ優しい!


「ライカ、ありがと〜!」




思いっきりの笑顔で言い放つと、ライカはやれやれといった感じで目を伏せた。
常々思ってたことなんだけど、ライカって炎山と似てる。動きというか、私に対する呆れ方が似てるんだ。



「やっぱライカと炎山は似てるよねぇ。呆れ方とか!」



思ったことを口に出してみると、じろりと見られてしまった。



「いきなり何を言い出すんだ、お前は。」

「だって本当だもーん。でも、嫌いじゃないよそういうとこ!」

「…はあ、そうか」




サァァ…と細かく降りしきる雨の中、私とライカは色んな話をした。

ライカってすごーくお堅いイメージだったから、一体どんなこと喋るんだろうと思ってたんだけど、実際喋ってみると想像してたより普通で話しやすかった。



「イヴは、炎山の家で居候してるんだったな。」

「うん。あのね、炎山ん家はマンションなんだけどすごーくお部屋がおっきいんだよ!あ、だけど結構シンプル…っていうか、質素かも。家具も必要最低限って感じだし。」

「あいつらしいじゃないか。」

「でも炎山って時々ケチなんだよー。遊ぼうよって私がお願いしてるのに、さっさと寝ちゃったりするの。」

「仕事で疲れているんだろう、分かってやれ。」

「ぶー、分かってるもん…。じゃあ今度からヒマな時はライカが私と遊んでね!」

「何故そうなる」



足を地面につけるたびに、ぱしゃぱしゃと水がはねるのが面白い。

だいぶローファーよごれちゃった……いたみやすいからね。そろそろ買い直さなきゃ。ここ最近、かなり走ってるからなぁ。




「ねーねー、話変わるけど、ライカのいるシャーロってどんな所なの?」

「そうだな…まず、寒い。」

「寒いの?」

「ああ。極寒の土地だ。それから広いな。広大な土地を有していて、宇宙科学が発達している。」

「へぇーすごい!ね、ライカはどうして軍人さんになったの?」

「…物心ついた時から、軍に入ろうと思っていた。
俺はまだまだ若いから、色々苦労もするが…何とかやっている。」

「そうなんだー…。私も向こうの世界で任務こなしてたし、戦う仕事の大変さはよく分かるなあ。」







「…『向こうの世界』?」






ぴたり、ライカが足を止めた。

私は傘の範囲内からはみでそうになって、慌ててストップする。




「あれ?ライカには言ってなかったっけ」

「何の話だ。イヴ、お前はアメロッパ出身と熱斗から聞いていたが…」


「ああ、あれ嘘なの。騙しててごめんね!ほんとは私ね、」









ドォン!!








「!? な、なに今の爆発音!!?」





そう、突然耳をつんざくような爆発音が聞こえた。
ばっと振り返ると、ずっと遠くのほうでもくもくと煙があがっているのが見える。きっとあそこで、何かがあったんだ。




「あっちだ、行くぞイヴ!!」

「う、うん!!」




ぱしゃっ、ライカの紺色の傘が地面に落ちる音。

私たちは走り出した。細かく降る雨の中、爆発音のした、煙のあがっている方角へ。


こんな街中で爆発だなんて、いったい何があったんだろう…?


 







09.まえぶれ

 


 



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