ミステリアスパニック!
□04
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マハ壱番にて。
イヴは自慢のカレーをおいしくいただきながら、カウンター越しにディンゴと会話をしていた。
「へぇー、ディンゴはこのお店で働いてるんだ。偉いね」
「へへっ!あ、そういやずっと気になってたんだけどよ。イヴって何で電脳世界と現実世界行き来できんの?」
「んー、なんでだろうね。私も良く分かんない」
「なんだそりゃ」
そんな二人をじとっとした目で見て、ぶつぶつと呟くコックさん姿のデカオ。
「んだよアイツら。イチャイチャしやがってぇ」
<デカオ様、もしかしてひがんで…>
「ねぇよ!!」
「でも、ホントにこのカレーおいしー」
ぽつりとイヴの口から出た言葉に、身を乗り出して喜ぶディンゴ。
「マジか!?ありがとなイヴ!」
「おい、作ったのは俺様だぞ」
「まーまー。あ、今思ったんだけど今日は平日なのに、2人とも”しょうがっこう”行かなくて良いの?」
そうイヴが首をかしげると、ディンゴが逆に尋ねてきた。
「そういうイヴはどうなんだよ」
「えへ、私は行かなくても良いのー」
「意味分かんないよ、イヴちゃん…。オレ様の学校は、今日は午前中だけ授業があったんだ。それで学校終わってからディンゴとあのゲーセンでネットバトルしてたってわけ」
そうデカオに解説され、なるほど午前中だけだったのねとイヴが頷いてくる所に、店の奥から一人の男性がやって来た。
「やあ皆さん、仲がよろしくて何よりですね。」
この店の人だという確信があったイヴは、いったんカレーのスプーンを置いて自己紹介する。
「あ、初めまして。私、イヴ・エルレインっていいます」
「初めましてお嬢さん。私はこの店の経営者、マハ・ジャラマです」
と、そこにディンゴが思い出したように聞いてきた。
「なぁなぁ、俺はアメロッパから来たんだけどよ、イヴはどっから来たんだ? 目青いし、名前もそうだしニホン人じゃないだろ?」
「え?え、えーっとねぇ……」
(うわ、ついに聞かれちゃった!)
予期はしていたが答えに困る質問に、思わず目線をそらし、イヴは考え込んだ。
(ど、どうしよう…。こことは違う世界から来たんだよって言っても信じてもらえないだろうし……。ええい、こうなったら!)
「わ、私もアメロッパから来たの!」
作り笑顔でそう言うイヴだったが、心の中では少し罪悪感にさいなまれていた。
「マジかー! アメロッパ出身とか、イヴちゃんスゲー」
「おいデカオ、俺もアメロッパ出身なんだけど」
(あああ…嘘ついてごめんなさい…!)
「けっ。だってディンゴだもんよ?」
「どういう意味だコルァ!!」
今にも喧嘩しだしそうな二人を、マハ・ラジャマが手慣れた様子で止めにかかる。
「はいはい二人とも、喧嘩しないで。お客さんの前でしょう」
「「…ごめんなさい」」
さっきまではぎゃあぎゃあ言い合っていた二人共が同時にしょんぼりするのが面白くて、イヴは思わず笑ってしまった。
「くすっ」
「んだよ、笑うなよ」
「だってー」
その時だった。
ガラッ!!
マハ壱番の横開きのドアが勢いよく開き、腰に手を当てた少年が勢いよく叫んだ。
「カレーの王子、光熱斗参上!!」
「よぉ熱斗!」
「いらっしゃい!」
なぜかイヴはその少年に見覚えがあった。必死に思い出し、はっと顔を上げる。
「…あ!この前のバンダナの、男の子?」
「あれっ?もしかして君、この前の公園の…」
そして確認を取るように、自分のPETの中のロックマンをチラリと見る熱斗。
<うん、間違いないよ熱斗くん。僕、覚えてる。>
「だよなー! やっぱりあの子だ!」
「何だ熱斗、イヴと知り合いなのか?」
「いーや、この前偶然公園で会っただけ。イヴちゃんていうの? 俺、光熱斗。で、こっちはナビのロックマン!」
<よろしくね、イヴちゃん。>
光、という名字に聞き覚えがあるような気がしたが、まあいっかと流したイヴは、笑顔で自己紹介をする。
「うん、イヴ・エルレインっていうの。よろしくね熱斗、ロックマン」
「おーい熱斗、カレーはいつものやつで良い?」
「うん、それで頼むよ」
そしてイヴのとなりにすとっと座る熱斗。
不思議と隣に来られてもイヴは嫌な気持ちにならなかった。
(この世界に来て…ちょっと人間嫌いがなおったのかな。)
「そういやイヴちゃんはさ、ナビ持ってないんだったよな」
大盛りのカレーをほおばりながら、問う熱斗。
「うん。ないよ」
「じゃあネットバトル出来ないのかぁ。あ、言っとくけど俺すげぇネットバトル強いんだぜ!!」
「そうなの?すごいね熱斗!」
「出しゃばるなよ熱斗!ロックマンなんかよりも、オレ様のガッツマンの方が10倍は強ぇんだからな!!」
「うるさいぞーデカオ! 弱いくせに!」
「なんだと!?」
「ま、まあまあ二人とも。ケンカしちゃだめだよー」
と、イヴになだめられ、しぶしぶ黙り込む熱斗とデカオ。
すると店の電話がプルルルルと鳴りだし、マハ・ジャラマがそれを取った。
「はい、もしもしマハ壱番。あ、はい出前ですか。はいはい、カレー6人分…はい、分かりました。すぐお持ちします」
がちゃ、と電話が切れ、マハ・ラジャラマは口を開いた。
「ディンゴ、デカオ。カレー6人分、出前をお願いしますね」
「「はーい」」
そしてイヴと熱斗に別れを告げ、出前のカレーが入った箱を持って店を出るディンゴとデカオ。
「じゃあな、熱斗、イヴ!」
「またなディンゴ、デカオ」
「ばいばーい」
そしてマハ・ジャラマも、何かあったらすぐに呼んでくださいねと言って、事務系の仕事でもあるのだろうか店の奥へ消えていった。
(……ふたりっきりだ。熱斗と。)
イヴと熱斗の二人になる店内。
しかし、その二人の間で会話が途絶える事は無かった。
「イヴちゃんはさ、ニホンの人?もしかしてっていうか多分だけど、外国から来たとか?」
「う、うん。アメロッパから…。」
(ああ、本日2回目の嘘…)
と、再び罪悪感にさいなまれながらも苦笑して答えるイヴ。
「へぇー、すごいな〜目も青いし。あ、俺の友達にも目青いヤツ居るんだけど、そいつもすげぇネットバトル強いんだ。」
「そうなんだー。じゃあ、その人もアメロッパ出身なの?」
ちなみに、イヴはアメロッパがどの辺りにあるところなのかサッパリ分かっていない。
「うーんどうだっけ、あんまり良く知らないけど。あっそうそう、あと髪型がおかしいんだよそいつ!あれは人智を越えている…!!」
<熱斗くん、炎山くんに失礼だよ!>
「…………ロックマンさんロックマンさん。今、『炎山』……って言った?言ったよね?」
<え?イヴちゃんどうしたの?何だか変な物でも見たかのような顔だよ…?>
「イヴちゃん、もしかして炎山のこと知ってんの?まあアイツ色んな大会で良いところまで勝ち進んでるし、有名でもおかしくはないかあ」
熱斗は平らげたカレー皿にカランとスプーンを放り、うーんと背伸びをする。
(ディンゴとデカオは、熱斗と友達で…、熱斗は炎山の友達………。私の出会った人たちって、みんな繋がってる…!こんな偶然ってあるもんなの?人間って…すごく色んな人と繋がってるんだあ…。)
そして、ぽつりと漏らすイヴ。
「…実は私、今炎山の家で居候してるの」
「へぇー、そうなん……………っだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!?えっ、あの炎山と!!?あ・の・炎・山・と!!!?」
<熱斗くん、炎山くんに失礼すぎるよ!>
「うん、なんか成り行きで」
「ほえぇぇー……なぁーんかスゴイ事になってんなぁイヴちゃん…。あ、やっぱり炎山ん家ってお城みたいな豪邸?」
目をキラキラさせて聞いてくる熱斗には大変申し訳ないが、首を横に振るイヴ。
「ううん、普通の高層マンション。でも、けっこう広いんだよー。それで、炎山の会社が目の前にあるの」
「へぇ〜。あー何か今超スゴイ事聞いちゃった!ま、炎山って良く分かんないとこもあるけど多分良いヤツだと思うから、イヴちゃんもがんばって!」
「うんありがと、私がんばるね!」
そしてイヴもカレーを平らげ、マハ・ラジャマを呼び勘定をしてもらい、満腹な二人は店を出たのだった。
04.ともだち。
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