ミステリアスパニック!

□少女、消える
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ゼロの部屋で、ゼロとエックスはお互いに向かい合うように、椅子に座っている。
その様子はさながら、カウンセリングを受けている患者と先生のようであった。



「で、多分俺はイヴを妹か娘のように思ってるんじゃないかと。けして恋愛感情とかでは無いと思うんだ、分かってくれるかゼロ?」


「だがアクセルにイヴを取られると無性に悔しいと。」

「………き、きっと巣立っていく娘を見送る父親のような感じなんだ。そうに違いない!」


「つーかよ。正直、アクセルも分かってやってんだろうな」




「? 何が?」


「……いや、何でもねえ。(その辺が、アクセルに負ける原因かもな…)」




言葉をにごしたゼロに、エックスがすうっと息を吸って大きな声で断言した。



「とっとにかく! これは断じて恋なんかじゃない!!」

「俺に言ってどうする」


「…いや、なんていうか、その………」



言葉を探して目を泳がせるエックス。
はぁ…とゼロはため息をつき、しょんぼりとうなだれるエックスに言い放つ。




「とりあえず、お前の気持ちや考えは分かったよ。だが、そのことに気を取られてミッションに支障をきたすようなら…俺は怒るぜ。」

「………ああ。」


「お前は俺のライバルだ。そんなしょうもねえことで腕を鈍らせたりしたら承知しねえからな」


「分かって、いるよ。」





話聞いてくれてありがとう。

とエックスは笑顔で言うと、ふらふらとおぼつかない足取りでゼロの部屋を出た。






そしてゼロは、再びため息をつく。





「………どいつもこいつも、阿呆らしい限りだぜ」







 






















「………んん………、…………はっ!」



がばっ!


跳ね起き、周りをキョロキョロ見渡すイヴ。
どうやら自分の部屋だということが分かり、ついでに自分はベッドで寝ているということも分かり、とりあえずほっと一息つく。



(あれ?そういや私いつの間にミッションから帰ってきたんだっけ)




「あ、イヴ起きた?」



キィとイヴの部屋のパソコンの回転椅子の音を鳴らしながら、アクセルが笑顔で話しかけてくる。



「アクセル」

「イヴったら、ミッション終わった後ボクのライドチェイサーの後ろでぐっすり寝ちゃってたんだよ?」


「ええっ、そうなの!?」



目を丸くして言うイヴに、アクセルはこくんと頷く。



「格納庫に着いてもなかなか起きないから、仕方なくボクが運んできたんだ」

「ご、ごめんね。でもありがと、アクセル。知らない間に、寝ちゃってたんだねえ私…あは。」


「うん。あ、アーマー脱ぐ?」



と、小首をかしげるアクセルに、あわてて頷くイヴ。




「ああ、うん。悪いけどちょっと部屋の外に出ててくれる?」


「りょーかいっ。着替え終わったら呼んでよね!」




ぴょんっと回転椅子から降り、部屋を出て行くアクセル。

それを確認してから、アーマーから普段着に着替えるイヴ。



(ふう、やっとこのアーマー脱げる。あ〜脱いだときの開放感たまんない…!)




そして着替えが終わり、部屋の外に居るであろうアクセルの名前を呼ぼうとした瞬間。






「…………あ、れ?」




ぐにゃり、と空間が歪曲するような感覚に陥り、とっさに膝をついた。いや、つかされた。とても立ってはいられなかった。





「なっなに、これ……!?」





その感覚は一向に収まらない。歪む空間にもう声も出せず、これからどうなってしまうのかとイヴはぞっとした。

ぐにゃぐにゃと変形して見えてくる、部屋の中のパソコンやらクローゼットやらの家具。まともに焦点が合わなくなってきて、だいぶ気持ち悪い。



(なにこれ……もしかして私、病気……?)



どさっと体が床に倒れ、はぁはぁと呼吸が荒くなる。出る声は短く、言葉にはなっていない。

しかも視界は歪曲を通り越し、色彩を失い、真っ暗になってきたのだ。

暗闇の中で、イヴはひたすら怯えていた。





(これ、一体なんなの?もしかして私、失明したの?何も見えない、見えないよ。)


(…アクセル、部屋の外に居るんだよね? お願い、助けて、たすけて……!)







「っ、たすけてっ……!」







体に残った全ての力をその言葉に注ぎ込むようにして、イヴは叫んだ。




が。







その次の瞬間、イヴはその空間から、完全に『消えた』。

しずかに、人知れず。完璧に消失した。



















「っ、たすけてっ…!!!」



「…イヴ?」



その苦しげな声を聞きただごとでは無いと察したアクセルは、何のためらいもなくイヴの部屋のドアを勢い良く開けた。



バンッ!!




だが、部屋の中にイヴの姿は見あたらなかった。





「イヴ? …ちょっと、まさか隠れてるの?」



しかし、この狭く殺風景な部屋に、隠れる場所などどこにも無い事は、しょっちゅう入り浸っているアクセルには分かっていた。


加えて、この部屋には窓が無い。
無機質な壁に四面を覆われているだけだ。






「……イヴ、どこ行っちゃったの…?まだワープ装置も造ってもらってない、その話すらしてない、…ちょっと、本当に…どこへ……?」




震える拳をにぎりしめ、アクセルはもうここにはいない相手へ叫んだ。





「ねぇ、イヴ………イヴっ!!!」

















…………たすけて







00.プロローグ
(わたしの、一世一代の物語がはじまる。)
 





 

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