麻帆良な日常
□ACT.5
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修学旅行当日。着替えなんかを入れた鞄とじーさんからもらった封筒(札束入り)を持って家を出る。
「あ」
ふと思い出して家の中に戻る。机の上に置いてある指輪を手に取った。昨日アスナからもらった誕生日プレゼントだ。
チェーンに指輪をとおし、首にかける。しばらくそれを眺めてから、オレは再び家を出た。
「おはようございます、飛鳥」
「はよ、夕詠。その恰好……何?」
待ち合わせ場所である大宮駅に着くと、もう夕詠は来ていた。黒いフードつきパーカーとサングラスで思いきり顔を隠して。
「知り合いがいるんです、バレる訳にはいかないでしょう? というか、飛鳥に言われたくないです」
夕詠に言われてから自分の恰好を見直す。
深めの帽子、分厚いレンズの(伊達)眼鏡、チェックのシャツをズボンンにIN。どっからどうみても……。
「ただの観光客に見えるだろ」
「秋葉原ならそうでしょうね」
目線を合わせず淡々と言葉を放つ夕詠。チッ、冗談の通じないヤツだ。
「冗談だよ」
そう言って眼鏡を外し、シャツも脱ぐ。白い長袖Tシャツにジーパンという簡易な恰好だけど、まぁ大丈夫だろ。近づかなきゃバレないバレない。
「うーん……」
オレの姿を見て夕詠が唸る。何だ人の顔じろじろ見て、男に見られたって嬉しくねぇよ。オレにそっちの趣味はねぇし。
「安心してください、僕にもそういう趣味はありません」
そりゃ安心だ。……てかデフォルトで心読むのはやめて欲しい。
「それより飛鳥、その頬の痣は隠したほうがいいんじゃないですか?」
「あ?」
言われてから頬に手を当てる。
「飛鳥を知っている人なら、その星形の痣を見れば飛鳥だとわかります。隠したほうがいいですよ」
「んー……確かにそーだな。夕詠絆創膏持ってねぇか?」
「花柄のなら……」
「何でそんなファンシーなの持ってんだ……」
普通の男子高校生が持つものじゃねーわな。
「はぁ……決まってるでしょう?」
その時オレの第六感が信号を発信した。『ツッコミを準備しろ』と。
「夕映の好きな柄だからですよ」
「ッのシスコンがあぁぁあ!!」