She falls in love!

□Case of Kuwahara
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年明けの始業式ってのは、何となく身が引き締まる気がする。去年、そのことを一年の時に柳に話したら、真田や柳生が喜ぶぞと真顔で答えられた。

その話をしたのはブン太が六年の時。ブン太には、真面目なやつだなって笑われた。

こんなことをふと思い出したのは、始業式の後に柳を見かけたからだろう。

「明けましておめでとう、ジャッカル」

「明けましておめでとう、ジャッカル!」

教室に戻る途中、ポンと叩かれた肩にブン太でないことは分かった。俺の背中をド突くのがブン太。

肩を叩くとしたら、幸村に柳と仁王くらいだから。仁王はたまに頭を撫でてくる。

振り向き様に同じ言葉をかけられて、明けましておめでとうと返す。同じ言葉を使っているのに、雰囲気が全然違う。

「柳と良稚、随分遅いんだな」

俺より先に体育館を出た筈のF組の二人は、顔を見合わせてた。

何かと思えば、二人の後ろにいる佐古木の男の方が若竹とかいう女子に説教されていた。

「遥くんが煩いって乃里ちゃんが」

「流石に出入口でするなと連れて来たら、既にジャッカルのクラスの波だ」

淡々と喋る柳だけど、内心呆れてるんだろうな。だって、ノートが閉じっ放しだから。

「ついでだ。今日はミーティングだけだから、A組に集合。一年には伝えてあるから、ジャッカルは気にしなくていい」

俺が毎度、毎度下級生に伝えているのを知っている柳はあまり世話を焼かなくていいとまで。

「性分だな」

「そうだろう」

分かっていても言うのが柳だから、苦笑いするしかない。

「柳くん、ミーティングってどれくらい?」

「そうだな…。赤也の理解度にもよるが、大方42分。弦一郎の説教込みで51分。これは柳生が止めた場合だ」

「そんなもんだよな…」

赤也が真田に説教されている姿が簡単に目に浮かぶ。すると良稚が、待っていようかなぁと呟いた。

「一緒に帰るのか?」

何となく、尋ねた。

真田と良稚風子?が付き合っているのは当然知っているが、どんな具合かは全く知らない。

時々、柳からブン太や赤也経由で聞くぐらいだからか、あんまり現実味がない。

昼休みを一緒に過ごす比呂士や柳は良稚風子?に親しみもあるかもしれねぇけどな。

「うん。もしかして、真田くんと帰る?」

ポニーテールを揺らす良稚は、俺の頭を見ながら尋ねてきた。俺としては、赤也関連で説教されないなら一緒に帰っても問題ないと思っている。真田がどうかは知らないけどな。

「良稚が良ければ、待ってたらどうだ?」

仮に一緒になったとしてもそこは、空気を読むだろう。多分。

「そうするよ。ジャッカル、ありがとう」

柳は楽しみだと笑う良稚の頭を撫で、早く行こうとまだやり合う佐古木と若竹とかいう奴らを促した。

同じクラスのテニス部の柿屋にミーティングを伝えると、喜んだあとにうなだれた。

「切原次第だな」

「あ、あぁ…」

先輩である俺らは、先の先輩たちに迷惑をかけてきたし、その先輩たちにも、後輩は迷惑かけてなんぼと言われてきた。

「迷惑かけてなんぼ、なんてなぁ」

柿屋も同じことを思い出したようで、そろそろ学習してくれよと祈っている。

「アーメン?」

「俺に聞くな」

こうして俺たちは連れ立ってクラスに戻ったが、遅いと怒られた。担任は数学の熊崎先生だ。


「真田、遅れてすまねっ…て?」

熊崎先生は散々、宿題を忘れた奴らに説教して、満足した頃には他のクラスは殆ど終わっていた。

ここから更に、ホームルームをするからずれ込んで20分。柿屋と俺は、ついつい頬を撫でて廊下を急ぎ足でA組に。

駆け込んだところで、雰囲気がおかしいもんだから柿屋と二人で顔を見合わせた。

柿屋は俺と反対で、仁王よりも色が白い。

真田が赤也と向き合っている。普段なら怒声、説教が飛んでいるのだが、何だか静か。

遅刻したなら俺たちもと思い、嫌々柿屋と前に行こうとした。

「柿屋、ジャッカル行かなくていい。熊崎先生だろう」

「でもさ、切原は?」

「赤也は英語の件でな。宿題はやったのだが、すぐに行われた小テストで10点。50点満点でな」

「それが何故か真田くんに知らされたそうで」

スッと音もなくやってきた比呂士の手には、小説。既に色々、見越していたんだな。

「真田、呆れてんのか?」

えぇ、と小説から目を上げない比呂士に俺達はどうしようもなく、このまま長引くのかと諦めて空いてる席に着いた。

「弦一郎」

「分かっている。赤也、最低限の結果を出せ」

苦々しい真田の表情からは、今の言葉は似合わない。あの真田が最低限なんて。有り得ねぇ。

赤也もそれに気付いたのか、ハッとした様子で頷くだけ。口を開かなかったのは正解だ。

「さて、ミーティングを始めようか」

柳がチョークで春休みまでの予定を書き、比呂士がプリントを配る。仁王のシャボン玉を取り上げた。

「今年は三連覇だ。俺達は負けて、幸村の帰りを待つつもりはない。勝ち続けて待つ」

真田は簡単に言葉にしたけど、それはすげぇ難しいことで、レギュラーになってからは当たり前のこと。

レギュラーだろうがなかろうが関係ない、と付け加えた真田は流石、副部長だ。

「練習試合等はレギュラーなど関係ない。隙があれば、奪え」

ギラギラと感じる視線は、気のせいじゃない。同期、後輩関係なく与えられたチャンスだ。

無論、俺もその口だからな。

その後は、幸村の病状や見舞いの話から真田の書が配られたり。

ロッカーを物置にするなと比呂士が仁王とブン太を見て、笑う栗田に貴方もですからねと眼鏡を光らせた。

「明日からは通常通りだ。一年は連絡網を明確にしたら蓮二に知らせるように。解散」

真田の解散と同時に賑やかになる連中にまじって、俺も帰り支度。今日は赤也を連れて帰るべきだろう。

やーなぎくん?と柳を呼ぶ声と同時に窓枠が何かとぶつかるような音がして、みんなが皆、音の出所を見た。そこには、良稚風子がいた。

帰れるぞと真田の肩を叩いた柳は、既に帰り支度を終えていた。

「む、風子か。待っていたのか?」

うんと照れてはにかむ良稚から真田は視線を逸らしたが、何となく顔が赤い気はする。

あまり、見たくはないな…。ほら、真田だし!

さっきまでの副部長の顔が少し、ほんのすこーしだけ消えてる。ブン太に至っては、驚き過ぎてガムを飲み込んでた。

「すぐに行く」

待ってるねぇなんて待つことすら楽しみにしてるんじゃねぇかってくらいに笑って、柳と比呂士の輪に入る。

「ホント、何が起きるか分かんねぇな」

「そうじゃの…」

仁王は真田の目をかい潜ったイタズラグッズを手の中で転がしていた。

教室を出る真田を見送る連中は、食い入るように見てる。まぁ、かくいう俺もな。


結局、真田と良稚風子の後ろを柳や比呂士たちといつものように帰ることになった。

正直、不満じゃないのかと聞いてみたい。からかう奴がいないからか分かんねぇけど、俺だったら皆の前で一緒に帰るとか恥ずかしいぜ。

で、ブン太に気を取られていたら柳に肩を叩かれた。ブン太を何とか仁王に押し付けて、柳の示す先では良稚風子が何かを真田に渡し、真田も良稚風子に何かを渡していた。

クリスマスプレゼントだよ、と微笑む柳に比呂士が反応して五月蝿い奴らをほったらかした。

「仲良しですね」

「そうだなぁ」

「弦一郎は照れすぎではないだろうか」

良稚風子が貰ったものを開けようとして真田に必死に止められている姿は、クラスメイトでもよく見る光景。

けど、それでこそって感じがするから後ろからの出歯亀も悪くねぇかと思った。


The common boy

普通の男の子の場合


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