She falls in love!

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「だからって、わざわさ?」

幸村は、クリスマスに見舞いに訪れた風子の人の良さに、感謝しつつ呆れた。

「うん。真田くんが部活の報告をしてくるから、幸村くんにその報告」

「部活のメールを送るなんて真田らしいよ。部活の話は俺で十分だろうに」

幸村は風子が真田について相談しに来た時には、想像していなかった展開にも呆れた。

「で、幸村くんが欲しいっていってた画集?柳くんから預かってきたよ、テニス部からだって」

大判の包みを幸村の膝に載せ、風子はもう一つの小さな包みを取り出した。

「はい!私からね」

「小さいね。開けても?」

嬉しそうに頷く風子に幸村は、赤い包みを開いた。中には、サンタクロースの衣装を身につけた小さな白兎。

「何がいいか分からなくてね。敢えての季節物にしてみました」

「ありがとう」

幸村は小さな兎を手の平で撫で回し、ここぞとばかりに体を乗り出した。

「真田には何をあげるの?」

「タオル?」

「良いと思うよ。俺達にとっては消耗品みたいなものだし。いつでも使えるから喜ぶよ」

「誕生日もだったんだけど」

ないよねぇと風子が笑うと幸村は、選ぶことに意味があるんだからと兎を手の中で転がした。

「そう?それなら、しっかり選ぶね!」

ふん、と息巻く風子がしてきたマフラーは普段使いのもので安心した。

「楽しみにしてるよ」

微笑んだ幸村はサイドに置いてあるノートパソコンに触れた。

合宿中の真田にメールを一日一通と言ったのは風子で、真田もこの時間ならばと了承した。

(幸村くんの話しようかな)

風子は幸村からお返しにと貰った菓子缶の入った紙袋を抱え、病室あとにした。

(そうしよ)

灰色の空の下、風子は足取り軽く帰路に着いた。

その頃、合宿中の真田はテニスに勤しんでいたが、悩みの種があった。

それはバレー部部長の竹田が事あるごとに真田にちょっかいを出してくるからだった。また、丸井や切原も便乗していた。

「今度からはバスケ部にしよう」

「あぁ。いっそのことアイツらも置いてこようか」

バスケ部の部長と仲の良い真田は決意し、柳も真田の説教に辟易し、元凶をねめつけた。

「いんや、おまんらが言わんでもそろそろじゃな」

ふらりと真田と柳の間に現れた仁王は、対角線上の騒がしい二人とその向かいにいる柳生を指差した。

指を指すなと真田が注意する前に、柳が指を下ろさせ、面白いぞと呟いた。

「いい加減にしませんか」

立ち上がったのは柳生で、いつもより更に低い声だ。普段は温和な柳生の豹変にテニス部だけではなく、バレー部も男女限らず固まった。

(やはりな)

柳はデータ収集が出来ると意気込み、仁王は仁王で観戦じゃとケタケタと笑う。

(今夜ばかりは柳生に甘えるか)

連日怒鳴りつけることに疲労を感じていたせいか、一瞬にして気が楽になった真田。

(柳生に感謝するか)

食べ終えた食器を片付け、未だ不穏な空気の残る食堂を一足先に出た。

部屋に戻り、携帯を取り出すとランプがチカチカとメール着信を知らせていた。

(風子か?)

扱い慣れない携帯を開き、カチカチと動作させ、開かれたメールの母親の文字に、なんだと短く溜め息を吐いた。

真田は、風子に対しての感情をあまり隠さなくなった。そのせいで、竹田たちにからかわれる訳だが。

それは慣れない。

部屋に一人しかいないのをいいことに、真田は思い切って寝転んだ。

(蓮二などが見たら驚くだろうか)

真田は端から見た自分のイメージというものを随分と理解していたし、寸分とまでは言わないが九割近く自分そのものだと言える自信がある。

だからこそたまに、風子のメールを待ち望む自分が面映ゆく感じて仕方ない。

(幸村に言ったら笑われるだろうな)

今はいない友人に笑われることは必須と確信し、バイブレーションが響いた携帯を開いた。

大きな体を起こして、携帯を弄る真田。部屋に戻ってきた柳生は、少し驚いたが羨ましいとも思った。

(先にお風呂を頂きますかね)

ジィーと旅行バックを開け、必要な着替えや石鹸などを取り出す柳生。

「な!」

そこで急に発っせられた真田の奇声に柳生は、は?とこれまた赤也がいたら驚くような声を出した。

「どうかしましたか?」

「む!いや…なんでもない」

柳生は口元を抑え、携帯のディスプレイを凝視する真田の耳が赤いことに気付いた。

(なんでもないと)

なんでもない訳がないですねと言いたい柳生だったが、先程の食堂での出来事もあり、叱咤した自分が蒸し返すのはおかしいと少しだけ残念に思った。

微動だにしない真田の肩を軽く叩き、柳生は先に行きますねと部屋を出た。

大浴場へ向かう道すがら柳生は、やはり羨ましいかもしれませんねと一人笑った。

その頃の真田は、風子からの幸村の様子の書いてある文面の最後を読み終えたまま、固まっていた。

後に、柳が戻ってくるまでそのままだった。


(今日は幸村くんに皆からのプレゼントを渡してきたよ!喜んでたよっ♪
それからね、幸村くんにあげたサンタのウサギも可愛がってくれるみたい!

合宿、お疲れ様!
今度は練習試合とか見に行きたいな
それじゃ、ゆっくり休んでね!
おやすみなさい(-。-)zZ
真田くん!好きだよ!)


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