She falls in love!

□Case of Hiroshi
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「ねぇ、どういういきさつ?」

困ったものですね

私は風子さんを追うことに致しましたが、柳くんに取って変わられてしまったので、真田くんを待つことにしましょう。

「いきさつか。特にはない。強いて言うならば、お互いが知り合いつつ付き合っている」

「いや、答えになってないよね」

納屋縁さんが、ふて腐れました。

と、竹田俊くんが急に真田くんの肩を掴んだのです。

「そうだよな!知らなくても付き合えるよなっ」

いえ、真田くんの場合は勘違いですよと言いたくもなりましたが、如何せん吹田エリカさんが何とも言えない表情を浮かべているものですから、口を噤みましょう。

「真田くん、部活に集中出来てる?」

吹田エリカさんは、つまらなさそうに、それでいて悔しそうに真田くんを見たのです。

その時、気付きました。彼女は、真田弦一郎くんが好きなのだと。

そして、柳くんと風子さんはそれを知っているのでしょう。

好意に気付いた時、どうしたものかと思うことは私もありました。

しかしその時、私に想いを寄せてくれているだろう彼女を私は、友人としか見られませんでした。

遠回しにその気持ちを示すことは、なかなか難しいものでしたね。

「出来ている。それくらいのことで、揺らぐなど、たるんどるっ!」

荷物の用意を終えた真田くんを逃がすまいと躍起になっているのは、竹田俊くんです。

「彼女ってそれくらいのことなんだ」

「む、自棄に突っ掛かるな。何か、あったのか?」

地雷を踏まないで頂きたいものです。

「私ね好きな人いるんだ。けど、見込みがないみたい」

カミングアウトをなさらないで頂きたい。

真田くん、流石に気付きましょう。

無理な話でしょうね。

「そうか。誰とも付き合っていないならば、動くと良い。そうでないなら、気は晴れぬかもしれんが、彼らを悲しませるな」

「真田…」

竹田俊くんは、真田くんの背中にしがみついて泣き出しました。

まるで、いえ、やめておきましょうか。


「そうね。ありがとう」

私としては、まさかの真田くんの恋愛指南を見ることになり、吹田エリカさんの苦悶の表情を見ることになり、正直、お腹いっぱいです。

早く、離れたいのですが。

真田くんはキリが着いたと判断したのか、私の名前を呼びました。

「とにかく、合宿でのテニス部は、幸村がいない代わりに俺と蓮二の仕切りだ。よろしく頼む」

「お先に失礼します」


吹田エリカさんの表情が気になり、ついぞ振り返ってしまいました。

彼女は悔しそうに、真田くんを見つめていました。



「柳生は、俺が風子と付き合っているというのは可笑しいと思うか」

徐に階段を下りながら切り出された疑問に、私が疑問を感じました。

「真田くんはそのようなことを気にする人でしたか」

「む…、風子が気にしているようだが」

それは、吹田エリカさんに対してでしょうに。

間に挟まれている柳くんの辛さを、今更に感じました。

後で、労いの言葉をかけましょうか。

「風子さんは気にするでしょうね。けれど、それは真田くんを過小評価しているからではありませんよ。それは、確実にです」

「そうか」

照れたように頷く真田くんは、あまり見ていられるものではありません。

仁王くんではありませんが、面白いものですねと心の中に秘めておきましょう。


「弦一郎」

「柳生くん」

小さな手を振る風子さんに手を振り返すと、真田くんが、呻きを漏らしました。


結局、柳くんと風子さんの後ろを歩く真田くんに私は、大丈夫ですよと言いました。

何故なら、真田くんを見た時の風子さんは心から嬉しそうに笑っていましたからね。



紳士の場合



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