She falls in love!

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冬休み直前、風子の不安を煽るには十分の出来事が起きた。

「あぁ。バレー部との合同合宿だ。テニス部もバレー部も男女共にだ」

言い聞かせるように話す柳。

風子は、そっか、としか言いようがなかった。

だから、どうってこともないけど

風子は、柳の心配そうな声音に申し訳なかった。

「大丈夫だよ。ほら、私も色々やらないといけないからさ」

そう言って朝に配られた冬休みの課題一覧表を取り出した。

「そうか。いつでも、聞くからな」

柳は佐古木姉弟に捕まった風子に背を向け、合宿のことに頭を痛めた。



「風子にか。いや、まだ言ってはいないが」

部活終わりの部室で、柳は真田に合宿の件を尋ねたのだ。

お節介はしたくないがな

途端に、何かあったのかと顔を顰める友人に、何でもないさと躱した。

風子は蓮二とよく話をするのか

当たり前だが

真田は時折、柳から風子の話を聞くことが心苦しいことがあった。

真田は、気付いていた。

けれど、気付きたくはなかった。

何に。

それは、真田が思う程に、風子は自分のことを好いていないのではないかと思うことで自分が風子を以前より好いているという気持ちにだ。

風子を好きでいることが不満ではない

ただ、風子ともっと話をしたいのだ

真田は噛み殺せない溜め息を諦めて、盛大に吐き出した。


「幸村のところに寄ろう」

「そうだな」

ごまかすように早口でまくし立てる真田。

柳は、日誌を所定の場所に片付けて、荷物を纏めた。

外は随分と暗く、部室の蛍光灯がいやに白く光りを放っていた。



病院へ向かう道へも慣れ、残り僅かの面会時間を馴染みの看護士に告げられる。

「やぁ、あと30分くらいかな」

棚の置き時計を確認した幸村に、柳はそうだなと勧められた丸椅子に座った。

真田も柳に倣う。


「そっか。バレー部か。竹やんが騒がしいかもね」

くすくす笑う幸村に、真田はバレー部の男子部長を思い浮かべた。

しっかりせねばならんな!

真田ってば
「大丈夫だよ、竹やんはしっかりしてるからさ。蓮二、場所は?」

「いつもの合宿所だ」



「真田、風子ちゃんとは仲良くしてる?」

真田は、仲良くと言う幸村に返事に困った。

喧嘩はしていない
べたべたしている訳でもない
話はする

一般的な中学生の交際概念のない真田は、柳にどうなのだろうかと視線を投げかけた。

「弦一郎、自信を持てば良いのに。風子もお前もお互いが思うより、近い仲じゃないか」

「なんだ、良かった。テニスの時は自信満々なのに、おかしなやつだね」

くすくす笑う幸村に、真田は大きな体を竦めた。

それは自分が一番、分かっている

「ほら、風子ちゃんだってさ好かれるタイプなんだから気をつけなよ」

「そうだな。精市、柳生からの差し入れだ。珍しくファンタジー小説らしいよ」

淡い橙色の装丁の文庫本を取り出した柳は、楽しそうに笑う幸村に手渡した。

そういえば、真田の初恋はいつなんだろう

幸村は未だ、照れているであろう友人を盗み見た。

そして、柳も同じように隣の大きな友人の恋愛遍歴に首を捻った。

そんなことを露知らず、真田は自分の振る舞いをどうすべきか悩んでいた。



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