She falls in love!

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新学期が始まった日、始業式前に教室で転校生が紹介された。

「佐古木遥です。よろしくー」
色素の薄い髪は、くりんくりんて跳ねている。へらっと笑い、遥って呼んでねと言った。

「佐古木弥生です。お見知りおきを」
遥も背は高いが、弥生も高い。セミロングを下ろしたまま、遥と同じ髪を揺らした。同じ顔で、私が姉だからと言った。


風子のクラスに双子の転校生がやってきた訳だ。双子が一緒という疑問も、体育祭に備えて人数が少ないF組にということで解決らしい。


「ついでに席替えするか」

担任の弓岡は黒板に升目を書き、番号を振る。横では、クラス委員が使いまわしのくじを掻き混ぜる。


「後ろがいいなぁ」
大崎が風子に振り向いた。

「一番前じゃなければねぇ」
同じように風子も思う。




くじ引きの結果、大崎は期待を裏切らずに真ん中の列の一番前。弓岡は、よくやったと大崎を褒めていた。反対に大崎は、死にそうな顔をしている。

風子は、柳の後ろで佐古木双子が左隣と後ろという驚異の席に。場所は廊下側で、後ろから二番目だ。


「始業式、私も一緒していいかしら?」
体育館に向かおうと立ち上がった風子に、隣の弥生が話しかけてきた。

「いいよー」
乃里子もやってきて、自己紹介。
風子は、乃里子と弥生は似ていると思った。
二人が話す間、風子は柳と二人の後ろで話していた。

「双子だってさ」

「あぁ、早くデータを集めなくてはな」

真面目に答えた柳に、相変わらずと思う。



遥は既に大崎や芳井と馴染み、騒いでいる。
喋りやすそうだな、と風子は騒々しい後ろを盗み見た。



始業式では、校長が夏休みは終わったのだから気を引き締めるようにと耳が痛くなる程解いた。

そして、表彰式に移った。

いくつかの部が、関東大会や全国大会で成績を残し、壇上に並ぶ。風子は、凄いなぁと拍手。

最後に、全国連覇を成し遂げたテニス部が壇上に並んだ。体育館のあちらこちらで、ひそひそと声が聞こえる。元々注目されていたテニス部が、更に注目されることになる。

何とか芳井の横から壇上を見ると、真田を始めに三強は三年生と同じように堂々としていた。

ただ立っている姿を見ただけで、風子は嬉しくなった。私の彼氏よ、ではなく単純に凄いんだなぁという意味で。

滞りなく終わった始業式のあとは、夏休みの友ではなく『夏休み最強の敵』である宿題を提出して、終わりだ。

遥と弥生は出すものがなく、その間ちょこちょこと風子に話しかけてきた。


「良稚風子ちゃんねー。風子ちゃんでいい?」
人懐っこい憎めない笑顔で遥は身を乗り出してきた。

「どうぞっ」

「風子、呼ばれてるわ」

弥生は弓岡の方をしゃくった。
宿題を手にパタパタと前に出る風子。弥生は、ぎろりと遥を睨んだ。

柳は何事かと、体の向きを変えた。風子は名前を記入している。


「遥、私の風子だから」

「やよのじゃないじゃんか」

「うっさい!興味津々じゃない!」

「やよ、怖いし。柳も見てるから」

だから何、と自分を見る弥生に多少驚いた。
とは言え、早々に風子が目をつけられたことにどうしたものかと考えた。








9月は行事が多く、特に二年生はてんやわんやだ。

「風子、これを渡しておいてくれないか」

生徒会に属する柳は、奔走しているようだ。というのも、彼が忙しさを見せる訳がない。尚且つ、無駄なことをしないため、高等部の先輩方の評判が良いと専らの噂。


クラス企画は、ショートムービーをオムニバスで流すことに。遥の提案だ。運動部が多いF組において、時間の融通が効くこれは大好評。
仕切りは、遥になった。






この時期になるとテニス部も例外ではなく、朝練の時間を部活企画に割く。放課後の練習を少しでも確保するためだ。

「柳の転校生、賑やかだね」

「幸村、日本語がおかしいぞ。蓮二のクラスの転校生だ」


真面目に訂正する真田を放って、幸村は柳の計画書を覗きこんだ。



「どうやら、風子に御執心のようだぞ」

「モテモテっスか!」

うきうきと有志の為の縁日の準備をする赤也。



真田は、何だそれはと聞き返した。

転校生は女子ではなかったか
真田が風子から聞いたのは、遥と弥生という双子がきたということ。更には、あんなことがあってという話。

御執心とは、まるで、男子…
男子なのか!


読んだ柳は、遥は男だと言った。


「弥生が目敏く気付いたが、風子は気付いていない。眼中には、ないな」

カチリと万年筆の蓋を閉めた。幸村が遊ばぬように筆箱にしまう。




「弦一郎、安心しろ。風子は、弦一郎しか見ていないよ。この前の表彰式で、西島先輩が派手に転んだが気付いていなかった。聞けば、弦一郎の背中は大きいね、と」

蓮二がまくし立てると、仁王と丸井がニヤニヤした。柳生は、可愛らしですねと。

「そ、うか」



真田は、風子に対する気持ちが大きくなっていることを感じていた。
海原祭の準備で、昼もまだ新学期に入ってからは一緒に食べられていない。帰りも、先に帰ってもらっている。

だからこそ、最近の風子を知らないことが歯痒い。


「メール、すれば?」
幸村は、三年生がやるための演劇のシナリオを書いては、読んで、消している。

おざなりに言ってはいるが、幸村なりの後押しだ。


「あぁ、してみよう」

暫くメールが出来ていなかったことも、悔やまれた。

このあと、真田は仁王と丸井のちょっかいに制裁をと思ったが、仁王は逃亡。




その夜、真田はメールを送った。







(風子、メールだぞ)(はいはい)(誰だ?)(クラスの子だよ)(乃里子ちゃんか)(うんー)


(テニス部は縁日もやるんだ…)(久しぶりのメールは緊張するのだな)(また、一緒に帰りたいなぁ)(昼は時間が取れないだろうか)



もやもや



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