She falls in love!
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「牧ノ藤って何処だった?」
仁王が兵庫じゃと答えた。明石焼きかなと首を傾げる丸井に日向が食いついた。仁王が手摺りから身を乗り出すと、隣に柳生がやって来た。
「来年、私たちもこの舞台に」
嬉しそうにコートを見下ろすパートナーに、仁王は当たり前じゃと言う。
「S3西島、D2俺と小塚、S2真田、D1日向と柳、S1幸村」
決勝戦は全試合、必ず行われる。そして試合を終えた選手たちは、観客席に集まり始めた。
昨年の優勝校が、再度決勝の舞台に立つ。それは、これから先に立ちはだかる壁となるかもしれないからだ。
「王者立海、勝負を受けて立つ!」
「イエッサー!」
西島が、組んだ円陣から離れると、錦が三年レギュラーの四人を呼んだ。
「俺達の代、最後の試合だ。華を飾ろうじゃねぇの」
突き出された拳を合わせ、レギュラーではない三年も頼んだぜと口々にエールを送る。
「おーい、そこの三人!」
後ろで見守る後輩を呼ぶ。二年目の貫禄を出す三人に苦笑し、手招きをする。
「お前らは来年の為にも、存分に暴れ回れよ!」
「イエッサー」
ニヤリと笑う幸村に、やっぱり部長はこいつだなと確信した。
西島は相手を寄せつけず、無駄のない動きをする。そして相手が疲れ始めた頃、左右に振り、容赦ない試合展開を始めた。
「西島先輩らしいですね」
「容赦ないところなんか、柳生にそっくりじゃ」
お褒め頂き光栄、と笑う柳生に仁王は、どうもとコートに目を向けた。
「ゲームセット、ウォンバイ西島規尋6ー1」
黒の短髪が、日向によってくしゃくしゃに掻き混ぜられた。
入れ違いにコートに入る錦と小塚は、切り込み御苦労と。
錦が得意とするのは、攻撃的プレイだ。反対に小塚は、相手の返球に種類を限定させる。そして、打ち込む。
生真面目な小塚らしく、錦のボレーがラインを外すと、ぶつぶつと文句を言った。
「あの小塚先輩と組めるのは、限定されますね」
柳生がふふっと笑った。
それを聞いた西島は、お前らの代なら丸井と仁王以外皆組めるだろうと言った。
西島は、後輩の器用さを認めていた。トリッキーな仁王より、誰とでも合わせられる柳生を特に。柳は、また別次元だからなと。
「小塚ァァ!」
「分かってる」
ポーチに出る相手の裏をかいた小塚は、正確無慈悲なスマッシュを決めた。
「ゲームセット、ウォンバイ錦・小塚ペア6ー0」
決勝で1ゲームも取らせない、うむ
真田が腕組みをし、柳は来年に使えるなと去年のデータに上書きをした。
錦と小塚が柳と話す。
それを横目に真田がラケットを握ると、西島と柳生が声をかけてきた。
「皇帝と言われるお前が、楽に試合が出来るのは最後かもしれん。来年は、『王者立海の皇帝、真田弦一郎』として戦わなくてはいかんからな」
真田は、容赦ないプレイをする西島を尊敬していた。真田の真っ向勝負を純粋に認めてくれる一人だ。
「はい」
「真田くんは、皇帝というよりはコートの鬼ですね」
柳生の言葉に、西島はそうかもなと笑った。
「行ってきます」
「あぁ、行ってこい」
「存分に」
勝負を決める第三試合。牧ノ藤は、どうしても踏ん張らねばならない。が、昨年から結果を残している真田がS2とは思っていなかった。
理由があった。錦たち三年は来年のことも考え、彼ら後輩レギュラーを後半に据えたのだ。
「俺達が負けるつもりはない」
「当たり前じゃん、錦ってば」
「貰っていいか?」
「西島ァ」
日向のチョコレートを貰う西島に、小塚のチョップが決まった。
「だが、負けた時には取り返さなくちゃいけない」
「そうだね。確かに今までは負けなしのあいつらだけどさ」
「相性があるからな」
「結論は、あいつらに任せるで良いんだろう」
「小塚は結論重視するなぁ」
日向は、チョコレートの包み紙で鶴を折りはじめた。
「なら、オーダーはこれで決まりで!」
「イエッサー」
真田のグランドスマッシュが決まり、相手選手は唇を噛み締めている。
それでも諦めないのは、決勝まできた実力という裏付けがあるから。そして真田は、ラケットを構え直した。
「徐かなること風の如し」
「ゲームセット、ウォンバイ真田弦一郎6ー0」
「お疲れ」
真田は、西島の差し出した手を受けた。
柳生は1ゲームも落とさずに決めた真田の強さを再度、認識した。
勝負はついたが、残り2試合が残っている。
錦は、先にやつらを出すべきだったかと思ったが、これはこれで良しとすれば良いかと思った。
D1、日向と柳がコートに入る。まるで柳の方が先輩に見えるが、プレイはやはり魅せてくる日向。
日向と柳が組む確率は高く、お互いがやりやすいのは分かっている。
「日向先輩、次です」
「おいーす、っしゃぁあ!」
次の手を読んだ柳は、やはり達人ってか
日向は、頼れる後輩に振り向いた。
ていうか、参謀じゃん
日向は、一勝を狙う相手に同情した。
柳からは逃げられないね
柳の指示、情報を背中に軽々と返球する日向。
柳もまた、日向を信頼しているから、矢継ぎ早に口に出来るのだ。
「ゲームセット、ウォンバイ日向・柳ペア6ー0」
当然手を抜かない立海の強さを目の当たりにした、観客や選手たちは来年を恐ろしく感じた。と同時に、来年も彼らの試合が見られる期待も大きくなった。
ついに、真田や柳と並ぶ立海の三強の一人、幸村精市が立ち上がった。
悠々と歩く様に苦笑せざるを得ないが、次の世代を担い手である幸村だ。錦もまた、来年の恐ろしさを肌身に感じている一人だった。
「神の子、参上!」
日向が、叫んだ。
知らない者はいない、幸村の表情に隠された恐ろしいテニスを。
流石は決勝まで連れてきた部長だ
真田は腕組みのまま、仁王立ちで幸村の試合を見ていた。
「しかし、敵ではないとお前は言う」
いつの間にいたのか、柳はタオル片手に立っていた。その後ろでは、柳生が真剣に試合を見ている。
「あぁ」
そう話している間にも幸村は、着々とポイントを取っていく。
「ゲームセット、ウォンバイ幸村精市6ー0」
選手は一列に並び、握手を交わす。その瞬間、立海テニス部の声が弾けた。
やっていて良かった
錦は、試合が終わった途端に破顔する後輩たちを見て、心からそう思った。
この日、立海は全国連覇を成し遂げたのだ。
カメラを持ってきたのは、日向だった。どうやら錦の荷物から引っ張りだしたらしく、錦が慌てていた。
記念撮影か
気恥ずかしいものだ
真田は昨年と同様に離れようとしたが、幸村に捕まった。
写真は二パターン撮った。三年生が優勝の証を持つものと、二年生が持つものだ。
どちらも視線を外した真田は、錦と幸村に怒られた。
after talking
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