She falls in love!

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季節は梅雨となり、じめじめと湿気が気になる頃。

そうなると、大会が近いとは言えコートが使えない外の部活は校舎内の至るところで筋トレに勤しむ。

筋トレをする場所というのもベストポジションがあり、この時期は部活同士の覇権争いが表沙汰になる。


たった今、風子の目の前で行われている会議はそのためのものだ。



でも、何で此処?
風子の疑問はすぐに消え去る。

「ちぇ、柳がいるんじゃ今年もテニス部優勢か」


ガクリと項垂れた大崎は、机に突っ伏した。
大崎はサッカー部で、テニス部と同じくベストポジションを求めていたのだ。


「サッカー部の先輩方もなかなか口が達者だけれどな」

くつりと笑った柳は、データは嘘をつかないと言った。



「でも、テニス部の先輩は?」

交渉と呼ばれる覇権争いは有名で、生徒会公認だ。
けれどそれに参加出来るのは、部長と副部長のみ。
柳の部活での立場を詳しくは知らない風子は、意味が分からないと尋ねた。


「戦術を託すのさ。それに俺は生徒会だからな」

「職権乱用じゃ?!」


えぇと目を細める風子に、柳は付け加えた。


「もちつもたれつだからな」

くすりと笑ったのは幸村で、真田は大崎の服装を相も変わらず咎めていた。

そして謎の言葉に悩まされた風子は、その日一日が終わるまで悩んだ。





「風子、今日はよく降る。早めが良いだろう」
柳はバインダーとノートを抱え、窓から空を見た。

薄暗い空が、ポツリポツリと雨を降らしはじめた。

かと思うと、途端にザアザアと窓に叩きつけるように雨足は強くなった。



柳の言いたいことに気付いた風子は、うわぁと窓に張り付いた。
「そうするね」
すごいなぁ、雨…

雨が降るようになってから、風子は真田と帰宅することがあまりなかった。

とは言え、毎日ではないが昼食を取りに自分のクラスにくる真田を嬉しく思った。

今では、小テストの点で怒られるまでに。

それは真田の面倒見の良さがあるのだが、端から見れば本当に付き合っているのか、と本人たちの預かり知らぬところで疑問に思われていた。



風子は柳と共に教室を後にし、2号館2階の図書室に向かった。

雨が窓を叩く音だけが図書室には響いていた。


ん、紙くさいっ
ぺらりとめくった本の香りに、一人むふふと笑う。




風子が窓から見下ろすと、テニスコートには誰もいない。

当たり前かぁ


ザアザアと流れる雨を、窓の内側から何となく辿る風子。


少し前に吹田に言われたことが、頭を過ぎった。



相応しいとか、そういうのじゃなくて…
諦めないって…


風子は吹田の「諦めない」という宣戦布告ともとれる発言を、追い出そうと頭を振った。



弱まる様子を見せない雨足に、風子は柳の言葉を思い出した。


急いで帰ろう

借りた本をビニールに包み丁寧にしまい、図書委員に帰る旨を告げた。




うわぁ、ジトジトしてる
滑らないようにしなくちゃ…


キュッと音をたてる上靴を滑らせないように、風子は廊下を歩いた。



この階には生徒会室もあり、煌々と図書室とは違う白い光が洩れていた。


やってる、やってる

ちらりと通りすがり様に見ると、柳が黒板に向かって板書をしていた。

柳の流れるような字をいつも見ている風子は、羨ましいなと思った。


と、柳が大きく何かを書き付けると、皆が立ち上がりざわめきだつ。


「終わったぞ」

ぞろぞろと出てくる部活の関係者にのまれないよう、反射的に扉からずれた風子に柳が声をかけた。


「今から部活だ。錦先輩、よろしくお願いします」

柳が声をかけた相手は、あぁと満足そうに笑っている。


「交渉、成功したんだ?」

「当然だ。俺のデータに狂いはないからな」

「どこでやるの?」

「1号館の一番上にホールがあるだろう。多目的教室横だ」

「知ってるよ。あそこ、広いから使いやすいの?」


柳はそうだ、と答えると錦と同じくらいに満足そうに微笑んだ。



「下まで行こう」

柳が、他の生徒会役員に別れを告げる。
その間風子は、廊下にいた。

吹田に会いたくなかったのだ。



「柳せんぱーい!」

バタバタと乱暴な足音に風子が振り向く前に、柳は赤也だと当てた。


「呼びに、って錦部長は…入れ違っちゃったんスね」

ちぇっと軽く舌打ちをした赤也に、風子は久しぶりと言った。



「最近、会えなかっスね!そういや、さっきも真田先輩に殴られたんスよっ」

自分に申告してくる赤也を諌めながら、風子は家にいるのと変わらないなぁと苦笑した。




柳と赤也の三人というのは珍しく、風子はこれはこれで面白いなぁと柳にやり込められている赤也を笑った。



「風子先輩、笑い過ぎっスよ!」

「ごめん、ごめん!」



「さて、きちんと濡れないように帰ることだ」

1号館まで来ると柳は階段に顔を向け、風子に言った。

「柳くんもね、赤也くんも怪我には気をつけてね」


ぽすんとローファーを履き、自分の傘を手に取る。



「それは、弦一郎に言ってやれ」

「俺が伝えてあげますからっ」


ニヤリと笑う二人に、耳が熱くなるのが分かる。


風子は、べーっと舌を出したが何のその。
二人は、笑っていた。




「また明日」



風子はザアザアと降る雨の中、最近は一人の帰り道を鼻歌混じりで帰った。





(真田先輩!風子先輩が怪我には気をつけてね、ですって)(む)(真田も隅におけねぇな)(錦部長!そんなことはっ)

(真田と風子が一緒にいるのって面白ぇよな)(栗坊、あまり刺激しないように。真田くんが…)(え?)(栗田ァァァァア)(うっわ!)





梅雨入り



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