She falls in love!

□21
1ページ/1ページ


風子と真田の関係は相も変わらず、不思議なもので。

言うなれば、父親と娘のように周りからは見られていた。

勿論、二人が付き合っていることを知っているのはテニス部だけで、既に一月弱。


風子は、今の状態に甘んじていた。

だからこそ、これから起こることに気付かなかった。


いや、気付けなかったのだ。





柳が生徒会書記に就任して暫く、中間考査の時期に入った。

テスト一週間前ともなれば、当然常勝を掲げるテニス部も部活動停止となる。

それとともに放課後に残る生徒も増え、風子の居場所である立海が誇る図書室も空席などなくなる。



「これだからテストはイヤなんだよね」

「風子の場合、テストそのものだろう」

「む、テスト勉強にはしっかり取り組まねばならん」

「風子ちゃんの苦手は数学かい?」

「何で、テニス部が揃ってんのよ…」

柳から渡されたプリントを嫌々受け取る風子に、真田は全くと呆れていた。

そして幸村は、真田のノートを覗きながら風子の苦悩ぶりを笑っていた。



若竹乃里子は、目の前に広がる光景に有り得ないねと呟いた。

「仕方あるまい、風子の数学の出来なさは酷いらしいからな」


本当かと真田が風子に尋ねると、うんと頷いた。

「苦手なのは数学と理科」
げんなりと理科のワークを真田に押しやる風子。


真田は苦手はいかんと言いながらも、また一つ風子を知ることが出来たなと内心、嬉しかった。





そして考査を三日後に控えたある日、風子は司書教諭への用を済ませ、廊下をたらたらと歩いていた。

教室では放課後テニス部勉強会が開かれ、風子も問答無用で参加が義務づけられていた。

やらないだろう、と見透かされた柳によって。


別段それがイヤな訳でもなく、ただ真田がいる自分の教室にどんな顔をして入るべきか、を悩んでいるから自然と歩みは緩やかになった。




「貴女が、良稚風子さん?」

不意に名前を呼ばれた風子は、たった今通りすがった女子に振り向いた。




「はい。確か、吹田さん?庶務の吹田エリカさん」

風子とさほど変わらない身長で、色白のエリカがジッと風子を見据える。


ざわりと吹いた風が、エリカの黒髪を流した。

そっと髪を押さえる仕種に風子は思わず、綺麗ねと言った。


風子の言葉が気に障ったのか、エリカは髪から手を離した。



「何か?」

「私、A組なの。真田くんが、好きなの」


なにを、言ってる、の?




風子は自分の心臓が落ちていかないようにか、右手で胸を押さえた。


エリカは風子の様子を知ってか知らずか、ぱっちりとした瞳で見つめたまま続けた。




「付き合ってるのよね、一応。真田くんに貴女は相応しくないわ」

エリカは風子が口を挟む前に、諦めていないのよ私、と一つ前に出た。


動けない風子は、廊下と上靴が鳴らしたキュという音にさえ、驚いた。




「覚えておいてね」

黒髪とスカートを翻し、風子の答えも求めることなくエリカは立ち去った。





真田くんは、人気がある
テニスの実力も…
頭も良い

皆に厳しいし、優しい…


私みたいに真田くんを好きになる人がいて、当たり前なんだった



風子は何故今まで気付かなかったのか、と唇を噛み締めた。


悔しさよりも、悲しさと劣等感が風子の胸に去来した。




そして随分と時間をかけて戻った教室にまだ真田はおらず、風子はホッとした。

「真田は用事だってさ」
幸村はつまんないの、とぼやいて机に体を投げ出した。

その際に落ちた柳の下敷きを拾ったのは、風子だ。


「何かあった?」

「何が?何もないよー」

幸村が訝しげに尋ねるが、風子はいつもの調子で躱す。






「風子、ワークの答え貸して」

「優しい風子様が貸してしんぜよう」


風子は乃里子の腰に抱き着いた。



額に当たるブレザーのボタンが痛かった。






状況に
甘んじる





<<<<<<

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ