She falls in love!

□Case of Masaharu
1ページ/1ページ


仁王雅治の場合−



「忘れた…」


風子は机と鞄の中を覗き終えると、あぁと項垂れた。



「弦一郎のクラスもあるが、同じ時間だ。借りにいくならB組だ」

柳は、頁をめくる手を止めずに告げた。




「B組に知り合いがいないの」


風子が借りようとしているのは、数学の教科書だ。

担当の熊崎先生は、忘れ物に厳しく、教科書を中心に進めていくため、今の風子は非常にまずい状況に置かれている。

ただでさえ、数学が苦手で度々当てられるというのにだ。


「ならば、仁王のところへ行こう」

柳は項垂れる風子の首根っこを掴んだ。





「参謀、どうしたんじゃ?」

仁王はそう言って、柳の後ろに隠れていた風子を、ちょいちょいと手招きした。



「お前さんが真田と付き合うとる女子じゃの」

こん前は柳生の姿だったけぇの、と笑った。





言われて見れば、とまじまじと仁王を見上げた。


どちらかと言えば、派手な身なりの仁王は風子が自分に興味津々なことが面白くなった。



「数学の教科書を貸してくれるか」

「いいかな?」


「構わんよ」


待っとりんしゃいと言い、尻尾を揺らした。




変わった雰囲気の人だ

風子の考えていることが分かったのか、柳はあれはアレで面白いと囁いた。



「参謀、うちのが進んどるかの」

ハラリ、ハラリと頁をめくり柳に差し出した。



「風子は数学が壊滅的だ。仁王の教科書なら助かる」

答えが書いてある訳でもなしに…



二人のやり取りを疑問に思っていると、ノートは取らないのだよとある単元を見せてきた柳。


ホントだ
そこには細長い仁王の字で、ツラツラと式の過程まで書き込まれていたのだ。





「良いの?」


「風子さん、お使い下さい」

「おぉ!凄いっ」


仁王は柳生の声音で口調で、指で丸をつくった。


「ありがとう、お礼はするね」



柳と連れ立って教室に戻る風子を、仁王はクスクスと笑って見送った。


「楽しみ、ナリ」





風子は仁王の教科書を開き、熊崎の指示する頁を開いた。

今日はちゃんと受けよう
普段なら早々に放棄し、当てられて慌てふためくのだが、今日は教科書を借りたため気持ちが違っていた。


ぺらぺらと何の気無しに頁をめくる。





「っく、!」

「何だー?」


風子の声に熊崎が振り返った。

熊崎のおおらかな字は、例題を写していた。


いえ、と首を振り下を向いた風子だったが、途端にククッと笑い出した。


「アッハハハ!な、何、これ…くくっ!」

最後は声にならない程笑い出し、机の上で握られた拳は叩くことさえなかったが震えていた。



「風子、何が面白いんだ」

「これ、落書きがっククッ」

「落書きをするんじゃ、ないっ!」

パコーンと小気味よい音が、風子の頭と熊崎の教科書でつくられた。


途端に我に返った風子は、顔を真っ赤にして手で覆った。



「風子!あとで職員室に来いよな、有り難ァいプレゼントをやろう」

ガハガハと笑い出した熊崎は妙に機嫌が良くなり、例え当てた大崎が間違えようといつものように怒鳴ることはなかった。



仁王くんてば…


斜め前の席に座る柳を見れば、クスリと笑って風子を見ていた。



柳くん、知ってたな!!

悔しいっ!!





その後、風子が職員室で懇々と説教とプリントを頭を垂れて受け取る姿を見た真田が、何事かと尋ねた。

無論、熊崎は真田に話した。

すると、真田は職員室を出ると風子を連れ、仁王の元へ。

訳が分からない風子は、たくさんあるプリントをホッチキス留めしなかった熊崎に苛立ちながら追いかけた。



「仁王はいるか」

なんじゃ、と首を傾げた仁王だったが風子の様子を見ると、理解したのかくつくつと笑い出した。

その度に、尻尾が顔を出す。



「仁王、教科書に落書きをするな。風子も、忘れるな。全く、たるんどるっ!」

結局、二人は真田に説教されることになる。






(あんなんでも良いんか)(ん、生真面目だよね)(面白いネタ待っちょるよ)(私も真田くんのネタが欲しい!)((よろしく))(風子、今度からは俺のを貸すからな)(…意外)





詐欺師もとい、
悪戯っ子の場合、







<<<<

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ