She falls in love!

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「今日の昼は何処に?」

幸村が、ラケットをしまう真田の肩を組んだ。



「あぁ、柳生と共に柳のクラスにな」

バッグの中を確かめる真田に、まさかと幸村は風子ちゃん?と尋ねた。




「そうだ。交友関係が広いようだ」

真田は、朝と昼の大崎の様子を思い出した。

気安く女子に触れるなど


「たるんどるっ!」

ジャッカルは反射的に体を竦めた。

それを見た丸井が笑ったが、仁王に髪の毛を摘まれて騒ぎ出した。




「しかし、名で呼んだ方が良いのだろうか」

幸村は、真剣に悩む真田に苦笑した。


「呼びたいんだろう。気にもかけていない相手なら、そんなこと思いもしないからね」

そう言われて真田は、そうかと頷いた。

クラスの女子や女子テニス部の中で、真田が下の名で呼ぶ者はいない。

む…
メールをしてみよう


真田は電源の落とされた携帯を引っ張り出し、電源を入れた。

今日はいるだろうか


メール作成画面を開いたは良いが、手が止まる。

手が動く様子を見せない真田に、柳が図書室の電気が点いていたと教えた。



「有難う」
真田は、まだ図書室かという旨をメールで送った。


気付かぬかもしれんな

汗で湿ったテニスウェアに手をかけた。





朝も昼も真田と顔を合わせることが出来た風子は、本の整理に精を出していた。

どうしてもにやけが止まらない頬を押さえ、本をあるべき棚にしまった。


「もうこんな時間じゃん」

下校時刻を知らせる音楽に、風子はキリをつけて荷物を片付けた。



やはり部活動に力を入れているとは言え、下校時刻は厳守しなくてはならない、常勝のテニス部でもだ。



風子は今から帰ることを母親にメールしようとポケットの携帯を取り出した。



チカチカ光るメール用青いのランプ。
お母さんかな…



新着メールの存在を示す時、フォルダが赤くなる。
それが今は、『真田くん』 フォルダ。



「嘘っ!」
風子はむやみにボタンを連打した。




『まだ、図書室にいるのか』

疑問符のついていない文面に、風子は今から図書室を出るところだと打った。


何だろう?
風子は不思議だったが、先に図書室の鍵を返そうと携帯をバイブにして、ポケットに入れた。



職員室には文芸部顧問の笹川がおり、おや、と微笑まれた。

笹川は社会科教師で、丸眼鏡をかけている。

風子は笹川の授業だけでなく、人柄も好きだった。

だから今年、顧問になると聞いて大喜びをした。


笹川は白髪を撫で付け、風子の差し出した鍵を受け取った。






真田はネクタイを締め、テニスウェアを畳んだ。

隣で丸井がそのまましまうのを叱って、仁王がネクタイをだらりとさせているのを締め直させた。



「弦一郎、光っている」

柳が、机に置かれた携帯を手渡した。

真田は、自分の心臓がドクドクとしていることに気付いた。

一体…


深呼吸をした真田を幸村が、くすりと笑った。



「む、まだいたのか。完全下校まであと少しだぞ」

私たちも、と柳生が言った。


二年が戸締まりの日は、こうやって部室でだらだらすることが多い。

真田は良しとは思っていないが、こういった時間が必要なのも実感していた。


「送りんしゃい。女子を一人で帰らせたらいかんぜよ」

くりくりと己の尻尾を弄りながら、仁王は真田の背中を叩いた。



「む…そうだな」

そうは言ったものの、真田は自分の言動の意味が分からない。

何故だ
分からんっ!



「お互いを知るなら、一緒に帰ると良いよ」

幸村はブレザーを正し、テニスバッグを背負った。

倣うように柳も、帰り支度を始めた。

そして真田は、動いた。






中等部用の門前では、サッカー部や野球部が集まり、騒いでいる。

賑やかなそれにテニス部が加わるのも、いつものこと。


風子は、恐る恐る大きな集団の傍に近付いた。



真田くんからのメールだと、校門前にいるってことだけど…

中学生にしては、隆々とした体の男子が集まっている。

何処に…


風子が遠巻きに探そうとした時、肩を叩かれた。



「風子じゃん、何してんの」

ニィと笑うのはクラスのサッカー部の男子。

「倉ちゃん!びっくりするから…」

ケタケタ笑う倉敷の背中を叩いた。



「誰か探してんの?」

「ん、うんー」

「珍しいな、こんな時間に帰るなんてよ」

倉敷は風子の隣でエナメルバッグをドカリと下ろした。

「ねぇ、真田くんいる?」

待ってな、と倉敷は辺りを見回した。



「さーなだー!」

「やかましいっ!近所迷惑を考えんかっ!」


倉敷の声以上に真田の声は大きかった。

声量の驚きもあったが、近くにいた他の部も倉敷と風子の方を見た為、風子は思わず倉敷の後ろに隠れた。


「隠れるな」

真田の少しばかり怒気を孕む声に、心臓が鷲掴まれた。


「どうした訳よ」

楽しそうな倉敷を真田は手で制し、行くぞと言った。


倉敷に完全に隠れている訳ではないから、風子の鞄や風に靡いた髪が見える。



「それなら行こうか」
幸村が、風子に目配せをした。


風子は、真田の意図さえも分かっていない上に、幸村の目配せの意味も理解は出来なかった。

が、このタイミングを逃せば、面倒なことになることだけは分かった。




「倉ちゃんっ、ありがと!」

「よく分からんがな。またな」



ぶんぶん手を振る倉敷を背に風子は、真田、テニス部二年組に続いた。











校門前にて







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