She falls in love!

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よし、行くか

真田は母親の手作り弁当を抱え、拳を握った。


何をしているのやら
柳生は真田の隣で、ハァと小さく息を吐いた。

そして見つかると面倒だからと、柳の言い付け通りに丸井がいないか辺りに気を配った。



F組の中を見れば、授業終わりの昼休みだからか、忙しなく動く者が多い。

風子は、柳の傍でおろおろとしていた。



「どうしたものか」

風子に勝るとも劣らずとも、真田も挙動不審だった。


過程を真田から聞いていた柳生は、呼びましょうと柳を呼んだ。


「あぁ、来ると良い」

蓮二は隠れようとする風子の首根っこを掴み、前に引き出した。



「大崎、机を借りるぞ」

柳は机を四つ向かい合わせにし、風子の隣に座った。

風子は向かいに座った真田を緊張のあまり見られず、下を向く。


やばい、やばい!
すごい緊張、してる…



おやおや…
柳生はそんな風子の為に、話を振った。


「宜しければ、お名前を。人づてに聞いているだけですからね」

ふんわりと笑った柳生に風子は落ち着き、名乗った。



「風子、よそ見をするな」

柳は、風子の水筒代わりのタンブラーを奥に押しやった。



「柳くんは、名前で?」

「あぁ。精市も下の名で呼ぶそうだ」


「それならば、私も風子さんとお呼びしても?」

風子は、柳と同じ若しくはそれ以上に丁寧な申し出に驚いた。


「好きに呼んで!」

摘んだ卵焼きが、箸から弁当箱にとんぼ返りをした。



柳と柳生が話し始めると、風子がそわそわし出した。


何を聞こうか…
チラチラと柳を見るが、一切スルーをした。


柳くんのばかァ


すると、真田が顔を上げた。

「誕生日はいつだ?」

真田は、摘みかけた唐揚げをやめて、卵焼きを取った。



ほぅ…
珍しいな

柳くんが楽しそうですね



「4月9日なの。だから、もう15歳なんだ」

真田から話しかけてもらえたことが、嬉しかった。

頬が熱いのも、手が震えるのもどうでも良かった。



「そうか。部活は何をしている?」

「文芸部だよ。最近は木曜以外、図書室にいるよ」

「そうか」




ぶつ切れではあるが、風子は真田からの問い掛けが嬉しいのか終始、頬が緩んでいた。

風子が風子なりに、至福に浸っているとドンと肩に人の重み。



「おいー、真田と風子はいつ知り合ったんだよー?」

真田は、風子の肩にのしかかる男を見た。



朝の、か…
「大崎、ネクタイが緩み過ぎだ。たるんどるっ!」

「今日は俺に用があったんだ」


思わず大崎を注意した真田を、柳がフォローした。


「そっか」

大崎はそれで満足だったのか、踵を返した。



「大崎も名前で呼んでいるのだな」

「ん、うん」


そうかと言うと、黙った真田に風子は何故か声をかけられなかった。


「風子、次は移動だ」

柳は未だ、もごもごと口を動かす風子を促した。


「ん、待って」

「いつも遅いのか?」


真田は綺麗に包み直した弁当箱を巾着に入れ、口を縛った。


「そんなことないんだけどね」

真田くんに緊張してるからなんて、絶対に言えない!



最後のプチトマトを食べ、手を合わせた。






机を直し、柳生が柳を連れ立って先に廊下に出た。


「真田くん?」

風子は真田が、風子の後ろにいることを不思議に思った。

柳や柳生と共に、廊下に出たと思っていたからだ。



騒がしい教室の中、真田くんの周りだけが静かだな、と風子は机の中から教科書を取り出した。


「俺は、メールが苦手だ。今日のように話す方が良い」

真田は、自分の知らない風子を目の当たりにして、もっと風子を知りたいと思った。



「あ、ありがとう…?」

「何故、首を傾げる。また、来ても良いか?」


真っ直ぐに自分を見る真田、周りの音が全く耳に入ってこなかった。



「よ、喜んで!」

胸に抱いた教科書をぎゅうっと抱きしめ、風子は真田を見上げた。


「そんなに意気込むでない」

風子の勢いに驚き、真田は苦笑した。



真田と一年で同じクラスだった者は、目を見開いた。


あの真田が、笑ってる

勝者の意味じゃなくて…

女子相手に!



笑みが例え苦笑だろうと、崩して笑わない真田を知る者は驚いた。





「今日はありがとうっ」

風子は、廊下で柳生と真田に礼を言うと、先に歩き始めた柳を追いかけた。



「真田くん、廊下を走ってますよ」

「む、たるんどるっ!良稚風子、廊下を走るなっ」



風子は、肩を震わせて振り向いた。

後ろには、笑う柳生と少し顔を顰めた真田がまだいた。




いひひっと笑うと早足で柳を追った。


「真田くんに怒られちゃったと風子は言う」


教科書を右手で抱え、左手で頬を抑え、妙な笑い声を出す風子。


柳は、データが取れたなとほくそ笑んだ。


そして、友人の進歩に尚良いと呟いた。








(なぁ、真田ってあんな風に笑うのか?)(私、始めて見たよ)(風子、大崎、声が大きい)((はーい))(柳くん、ありがとう)(良かったな)(うん)








彼女を知る
彼を知る







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