She falls in love!

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荷物を足元に置いて、風子はテニスコートの前で立ち尽くしていた。

実際に見ると大きいんだ…


フェンスに張り付いたままでいると、何人かの女子も同じ様にフェンスに張り付く。


誰の応援なんだろう?



ぱらぱらと集まり始めたテニス部員。
風子は何だか居心地が悪く、見えない場所に移動しようとした。


あ、あそこなら…

荷物を持って顔を上げると、幸村が自分を見ている、そこにいてねと。


逃げられない…




幸村の監視下、風子はひたすら真田だけを見ていようと決めた。

最初の外周や基礎練の間は学年入り混じって行われていたため、風子は色んな人がいるんだなぁと見ていた。



「二年はそこでローテーションでメニューをこなすように」

幸村に指示を出した三年生から視線を外し、見知った部員に移した。



「ほぉ、良稚がいるんじゃの」

「ぼけって見てんだよなぁ」


ジャッカルと仁王の言葉に、真田は帽子の鍔と視線を上げた。



なんだ、おらんではないか
全く、冗談も程々にせんか


「何だよぃ、真田あっちじゃねぇよぃ」

丸井がニヤニヤ笑って、あっちだと目で示す。


その先には、確かにぼんやりと眺める風子がいた。



なんだ、いたのか


「確認できたかの」
くつくつ笑う仁王と丸井に、幸村がまあまぁと窘める。

が、笑っているせいで意味を成していない。


幸村たちのやり取りに風子は、珍しいなぁと腰を下ろした。



ラリーを入れ代わり立ち代わり行っているのを、隣の女子たちも楽しそうに見ていた。






仁王と組む柳生が、恐らくは同期であろうダブルスを揺さぶる。

仁王くんをリードしているのは柳生くんでは、と風子は見ていた。



丸井はジャッカルと共に、コートを縦横無尽に走り回っている。

風子が知っている丸井は、廊下を走り回っている丸井だ。

雰囲気が全然、違うなぁ



それを見ているのが、幸村、柳と真田の三人。


んー、オーラが違うなぁ


異様な空気を醸し出す三人に、風子は苦笑した。



「だけどさ、あの三人以外も皆、格好いいよね」

三人組の一人が呟いた。


そうだねと笑う彼女たちに、風子は他の二年を見た。



本当だ…
テニス、まっしぐらって感じだ

凄い…



風子はその中で、何故自分が真田を好きになったのかを考えた。


自主練は皆がしてるし
風紀委員の真田くんは怖いかも
声は…渋いよね
テニスをやってるところも、好き



きっかけは、と風子は考えた。



と、その時真正面から風が吹いた。

三人組は、キャアとワンピースのスカートを押さえている。





「目に砂が」

「柳の目にも砂が入るんだね」

くすりと笑った幸村に、聞こえていたらしい丸井が腹を抱え出した。



ローテーションが進み、今まで見ていた三人もラケットを取る。

すれ違い様に柳は、丸井のポケットのガムを取り上げた。



「お前が悪い」

「もう一つあるから良いぜぃっ」



愚か者と呟く真田に、ジャッカルが肩を落とした。



「あそこの女子、いいのかな?」

真田と入れ代わりの部員が、フェンスを指した


「何がだ?気を削がれるなど…」

「だろ、誰か言ってやんねぇとなぁ。柳か、幸村か…」


部員は真田が黙り込んだのを是と感じたのか、隣のコートの柳を呼ぼうとした。




が、真田が走り出した。

「真田ぁ?」



ザカザカとこちらに向かってくる真田。

三人組は、そそくさと隣のコート前にずれた。


風子は表情に押され、ポカンと口を開けていた。



座り込んでいるため、真田を見上げたままだ。



「女子が…女子がそのような格好で座るなっ!」

へ?
風子は真田の顔が真っ赤で、視線が下に向かっていることに気付いた。



「え、あ、…ぁ、はい」

見えないだろうと高を括っていたのだが、風のせいで微妙に見えていたらしい。


まさか真田くんに指摘されるなんて…

恥ずかし過ぎるよ



膝に顔を埋め、ありがとうと手を挙げ真田が去るのを待った。


幻滅された…



ギイと鈍い音がし、ちらりと顔を上げると少し離れた位置にある出入口から真田が足早に出て来た。



「良稚風子、これで隠していろ」

真田が風子に差し出したのは、タオルだった。



どうしよう
真田くんのタオル…
真田くんの匂いとか

うわ、変態みたいだ



わちゃわちゃと頭の中が整理しきれていない風子に真田は、無理矢理膝に載せた。



「汗くさいのは我慢しろ」




踵を返した真田を風子は、抑えきれない嬉しさで見送った。





(真田、早く始めるよ)(あぁ)(そういえば、何色だったのかな)(や、柳…俺見ちゃった…真田に殺されるかな)(佐藤、口にするな、忠告だ)(お、おぅ)




彼らを見ろ、
彼女を見るな






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