She falls in love!
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その日は、いやに晴れていた。
だから、テレビの天気予報を見ても風子は、折り畳み傘を持たなかった。
晴れている割には妙に寒々としており、風子はマフラーぐらいはと、手にしたそんな日だ。
「今日は帰るよ」
日常と化している昼の大所帯で風子は、乃里子にそう答えた。
「なら、私と帰ろ。」
祥子も、私もねぇと割り込んだ。
風子の向かいにいるはずの真田は、いない。柳生もいない。
二人は風紀委員の集まりらしく、ここ最近一緒ではなかった。
「風子、傘は?」
柳が、降るだろうと空を指差した。
けれど風子は、晴天だよっと笑い傘が無い旨を伝えた。
「降るぞ」
「げ、なら筋トレにすっかな」
大崎はサッカー部で副部長に就いており、こうして柳から得た情報を活かしている。
「本当に降るかな?」
「ばか遥、柳が言ってるんだから降るんでしょ」
「やよ、ひどいし」
佐古木双子のやり合いに大崎が巻き込まれ、結局として仲裁をするのは、乃里子だった。
授業後の掃除ではしゃいでいた大崎と遥が、乃里子と柳にいつものように説教をされる。
それ以外に変わったことは、なかった。
そして、風子は乃里子と共にD組の前で、祥子が出てくるのを待っていた。
D組の森川女史は相変わらず、丸井を叱っている 。
まるで母親の様な叱り方に、乃里子は意味が無いだろうにと呆れた。
「さっちゃん、丸井くんの椅子を蹴ってるよ」
ぷくくっと笑う風子の声は、他のクラスから出てきた声に掻き消された。
「やっとね、遅い」
「丸井のせいだってば」
「は?茅ヶ崎がチクるからじゃねぇのかよぃ?」
「普通はお菓子を朝からずっと食べないわよ、丸井、馬鹿?」
「若竹、ひどくね?」
丸井が乃里子に文句を言い出すと、祥子がそれを遮った。
「幸村、これ宜しくね」
「ありがと」
C組も終わったのか、担任の舩木がよろよろと教室から出て来た。
中年を絵に描いたような舩木は、真下や幸村を制御することに苦労している。
彼の目下の課題は、騒がしい真下が何故、生徒会長なのか、だ。そして真下に乗じる幸村は策士だ、と舩木は悩むのだ。
頑張りなさいよ、と乃里子は丸井の背中を叩いた。
痛いと喚く丸井に乃里子は、レギュラーになりたいんでしょと言った。
それを見た風子は、仲が良いなあと関係のないことを考えていた。
「幸村くんも気をつけてね」
「真田にも伝えておくよ」
そう笑う幸村は、綺麗だった。
乃里子と祥子と他愛もない話をしながら帰路に着く。
柳や天気予報士が言ったように、雨は降らない。
風子は傘を持ってこなくて良かったなぁと、荷物の軽さを喜んだ。
「また明日ね」
「じゃ」
「ばいばい、また明日」
乃里子と祥子の二人と別れると、ポツリと頬に滴。
うそ、まさか
風子が見上げた空は、先程までの晴れた夕空はない。
ざわざわと灰色の雲が集まり、パラパラと雨が降りはじめた。
風子は急ぎ足でマンションへと走った。
その頃、テニスコートではやはりと柳が筋トレを指示しようとしたが、幸村が遮った。
「明日、筋トレをするよ。今日は解散しようか。傘を持ってない人、多いでしょ」
栗田と丸井が顔を見合わせ、だよなと肩を落とした。
「さ、解散だ。今日は仕方ないからさっさと着替えるんだよ」
岡野と赤也が騒いでいるの咎めた。
サアサアと降りしきる雨を見て、マフラーを巻く幸村。柳もまた、マフラーを取り出した。
「そうだ、駅にさ美味しいタコ焼き屋さんが出来たらしいよ」
後ろで騒ぐ栗田をポカリと殴り、幸村は丸井を誘った。
「駅組は行く?」
下級生もいる部室はいつも以上に騒がしいが、幸村の誘いに手を挙げる者はいる。
「真田もだよ」
「む」
迷っていた真田に幸村は、ねっと肩を叩いた。有無を言わせない、誘いだ。
外は雨。
真田は、マフラーを持っていない。その代わりに、傘は持っていた。
バサリと開いた大きな傘は、テニス部の誰よりも大きく、柳の淡い緑の傘と並んだ。
(風子は傘を持っていたのだろうか)
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