龍は雲に従う
□第五章〜対決〜
3ページ/6ページ
それを聞いて、紐心は目を閉じた。そして静かに、
「・・・それは出来ませんね」
「どうしてもですか?」
「私は異形としてではなく、人として生きようと決めたのですよ。そしてこのやりやすく、利益も多い商売を見つけた…。どうしても止めると言うなら・・・私はあなたを排除します」
そして目を開く。その目は黒ではなく、真紅であった。次に紐心の周りが白濁し始め、それが晴れた時、紐心のいた所には白い一匹の大蛇がいた。体長は光元の五倍もあろうか。
大蛇はユラリととぐろを巻く。光元はそれを見て深いため息をついた。
「やはり穏便にはいかないかか。しょうがないな…」
光元は右手で剣印を結ぶ。
その時、大蛇がとぐろを巻いた状態から一気に伸び上がった。長大な毒牙が光元に迫る―――。
それと同じ頃、白河は酒をゆるりと口に運んでいた。そんなさりげない動作も、上品で隙がない。白河は酒を飲み干し、椀を机に置いた。
その時、襖の向こうに人影が写った。紐心より大きな人影だ。白河はその影をおもしろそうに見つめる。
―――誰でしょうかね・・・。―――
その時、人影が襖に手をかけて、
ガタガタガタッ!!
「なんだこの襖!開かねぇじゃねぇか!!」
しかし襖には何の術もかけられてはいない。最高級の部屋であるから滑りも良いはずである。
「くそ。この襖、俺にケンカ売ってんか?」
なぜか襖にケンカ腰である。
「しゃらくせぇ!!引いてダメなら押してみろぉ!!」
バドン!と鈍い音がして、襖が枠から外れ、室内に向かって倒れた。しかし、一番奥にいた白河には何の支障もなかった。
襖の向こうで片足を突き出して立っていたのは、酒を飲んで顔を紅く染めた黄金色の髪と瞳をした男であった。
・・・・・・まぁ、はっきり言えばコーちゃんだ。
コーちゃんが満足そうに足を下ろしてふと前を向けば、そこで先ほどまでの出来事を、たいして驚きもせずに見ていた男と目がかち合った。
「お前が白河って奴か?」
初対面の相手になぜかドスの効いた声音で聞く。だが白河は平然と、
「いかにも。私が白河ですが?」
「なら話は早いな」
コーちゃんはスラリと刀を抜いた。そしてその刃を白河に向けて、
「立ちな。俺の酷薄で悪賢い主人がふん縛ってでも連れて来いと言うんでな」
「ほぅ。・・・判りました」
白河は立ち上がり、
「ですが―――」
.