龍は雲に従う

□第五章〜対決〜
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「白河(びゃくが)様、それは真でございますか!?」

その頃、下の階『一期一会』の最高級の部屋、『睡蓮の間』では、紐心が声を弾ませていた。その紐心と向かい合い、片胡座をかいて座る者がいる。

紐心の前にいるのは、長い白銀の髪に銀灰色の瞳を持つ、青年…なのだが、一見すれば傾国の美女とも見てとれてしまう程の美貌を持っている。着物が男物でなければ、紐心も間違えていたであろう。

白河。そう呼ばれた青年は、形のよい口唇を開いた。

「先ほどからそう言っているでしょう?あなたの持つ『火鼠の皮衣』、私が銀子千両で買い取りましょう。紐心殿、いかが致しますか?」
「せ、千両…!?勿論ですとも!是非お願い致します!!」

今までも紐心は白河の組織と、妖力を持つ品々を売買してきた。しかし、これが今までで一番の取引であった。統領直々のお出ましに、千両の銀子。これを逃す手はない。

「すぐに衣を持って参ります!!」

良い返事が聞けて、白河は秀麗な笑みを浮かべる。

「あなたの持つ品が本物であることは既に判っております。あなたも私も…人ではありませんからね。気配で判ります。『火鼠の皮衣』…それは火に燃えぬと言う幻の一品。この私の力を補うに相応しいと思いませんか?」
「はぁ・・・」

白河は紐心など足元にも及ばぬ大妖だ。それほどに白河の妖力は大きく、強い。それ以上の強さを求めて、何をするつもりなのか…。
だが、それは紐心が口を出すべき事柄ではない。

紐心は白河に一礼して、それ以上何も考えず、何も言わずに宿の宝物庫に向かった。触らぬ神になんとやらだ。







屋外にある宝物庫には、妖力を持った品々が保管されている。紐心が買い取ったり盗んだりした物だ。『火鼠の皮衣』は唐から来た異形から買い取った物である。
紐心は奥へと急いだ。客人を長く待たせてはいけない。





しかし、その足は宝物庫の最深部に着いた途端にパタリと止まった。
そこには先客がいたのだ。若草色の狩衣に黒い括り袴という出で立ちの…。

「悪い憑き物はいましたかな?」

紐心は普段と変わらぬ声で言う。しかし目つきは鋭く、握りこむ手は何かを抑えている様であった。

少年がこちらを向いた。そして軽く笑みを見せる。

「僕のことは光元でいいですよ。ま、それはいいとして…紐心さん、こんな裏商売はやめて下さい。そのうち何らかの悪影響が出ますよ?」


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