龍は雲に従う

□第三章〜隠者出立〜
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一方の盗人達、もとい光元とコーちゃんはといえば・・・。

「コーちゃんのバーカ!バーカ!何やってるんだよ!?盗み食いしろなんて誰も言ってないじゃんかぁ!!」
「腹減ってたんだからいいだろうが!コーちゃん言うなぁ!あとバカ言うな!バカ!」

人気の無い路地にて大音声での侮辱合い、というより『バカ』の言い合いを開催していた。
幸いなことに追っ手に役人陰陽師の姿は見えず、コーちゃんは後方を追いかけてくる検非違使達を持ち前の俊足と隠形で早々に撒き、更に整備不足や沼地の多い為に衰退気味な右京に入った。直後、小脇に抱えられた状態から下ろされた光元の内蔵していた怒りが爆発した。
売り言葉に買い言葉。勿論剛毅なコーちゃんは反論したのである。がしかし、何処か微妙に論点がずれた発言をした為、口論の続きは随分と幼稚な内容となっている。

「仕方ないよ、だってコーちゃんバカだから!」
「バカって言う奴がバカだ!!バーカ!」
「バカって言ったらバカって言っといて、言った自分もバカって言ってるコーちゃんのがバカでしょ!」
「るせぇバーカ!『言う』が多すぎんだよバーカ!!」
「自分の首絞めてることに気付かないコーちゃんのがもっとバーカ!!」
「あぁぁあ!もう知らねぇっ!!」

短気なコーちゃん(ちなみに押され気味だった)が喚いて口論を中断させる。代りに片手が腰の得物に伸び、鯉口を切る涼やかな音(ね)が微かに響く。

「埒あかねぇ、いっそ実力でこのカタつけてやる」
「えぇ〜!僕暴力嫌いなんだけどな〜」

光元は眉尻を下げ不満を顕わにする―――かと思えば、おもむろに袖口から引き出した両手には零れ落ちんばかりの呪符の束。顔には不適で素敵な黒笑みを添えて相手を迎えた。

「でも今回は例外にしとく。僕もさすがに、ちょっと我慢の限界」

自称穏便派の光元であるが、さすがに先程の失態は彼の忍耐の臨界点を突破するに十分足りたらしい。光元が屈ませた体の前で腕を交差させ投擲の体勢に入る。
コーちゃんも主人の黒笑みに怯むことなく前後に足を開き腰を落とす。得物は既に半分抜かれており完全な臨戦態勢だ。

「いっそこのままお前の首かき切って厄介払いしてやる」
「ふふん、出来るもんならやってみれば?一度負けたくせに」
「はっ!つまり不意つかないと勝てないって言いてぇんだろ?」
「事実はその身に染みて理解してみれば?」

微動だにしない龍と術師が睨み合い機を伺う緊迫感。一触即発と比喩出来そうなほどの緊張の張り詰め具合に、空気まで漂うことを遠慮して硬質化してしまいそうだ。

コーちゃんは体勢からして言うまでもなく、超高速の抜刀による居合い斬りで決着をつけるつもりだ。光元の立ち位置は完全に彼の間合いの中である。
しかし光元の対抗する技と言えば、断言しかねる。陰陽術の中にどれほど黄龍の一撃に対抗できる術があるのかは全く未知の領域なのだ。
基本的に術には施行するまでには呪歌なり真言なりという、詠唱を必要とするものが多い。しかし呪文を紡ぐ暇など睨みあった時点で既に皆無だ。

以前より準備をしていると言うなら話は別であるが、そうなるとその手の大量の呪符が攻撃に用いられるのか、それとも防御か、回避か・・・次の手が全く読めない。
勿論、それを懸念するほど対するコーちゃんに余裕があるのかも不明ではあるのだが。
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