設定・外伝集

□連理の枝・比翼の鳥
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「出て行け。お前にはもう、愛想が尽きた」

医務室の役を果たす幕舎に駆けつけた流剛は、遮幕を上げたその途端に冷淡な言葉を投げつけられた。加害者は寝台の上で身を起こしている美女、沙耶姫だった。無敵の戦女神と謳われる女が、今は体の各所に包帯を巻く痛々しい姿を晒していた。

「援軍を頼んだのに、いつまでも駆けつけぬとは・・・それでも族の長か!?」

鋭い青銀の瞳が流剛を見据え、怒りの混じった声音で問い詰める。

「・・・すまぬ」

流剛はただ俯き、謝罪を述べることしか出来なかった。

「此度の戦の相手が、まさか儂等を分断するとは思わなかった」

言ってみれば、驕(おご)り。相手を甘く見すぎたのだ。
同等の大部隊であったものを、集中突破で二分された。少数の部隊として分けられてしまった沙耶姫の率いる部隊はそのまま敵の部隊に呑まれる様な形になった。流剛は即座に精鋭部隊を掻き集め救援に向かったが、いかんせん敵が多かった。
立ちふさがる敵をなぎ払い、切り伏せ、苦心しながらも辿り着いた先では、沙耶姫の部隊が圧倒的多数を相手に必死の反撃に出ていた。そこから辛くも勝利まで得たのは、ひとえに沙耶姫の指揮あればこそだったろう。
だが、そのせいで沙耶姫は怪我を負ってしまった。本来守るべきものを傷付けられる。その苦渋は流剛の背に重く圧し掛かっていた。

「相手を甘く見てはならぬ・・・身に染みて解した。再びはしない」
「・・・もういい」

許してくれるのかと、流剛は顔を上げた。しかし沙耶姫は冷たい視線を送ったまま・・・。

「二度とその顔を私に見せるな」
「なっ・・・!」

瞠目した銀灰の双眸が凍った。戦という不条理な事柄に道理は皆無。応援来訪の遅延など沙耶姫も理解の範疇だろう。それなのに、この怒りの大きさは何なのだろうか?

「さ、沙耶・・・?」

思わず歩み寄り伸ばした手は、軽い音と痛
みと共に払いのけられた。
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