設定・外伝集
□山中の神馬
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「俺は先に帰るからなっ!てめぇらは後から二人で帰れ!!」
我慢しきれなくなったのか、コーちゃんは一気にまくしたてると立ち止まる。そして自身の妖気を開放させた。放出された力に木々がざわめき、三人の髪が煽られる。コーちゃんの周辺を黄金色の燐光が漂い始める。本性『黄龍』の姿に戻ろうとしているのだ。増幅していく妖気の大きさに、無言で立ち尽くすシーちゃんは肌にビリビリと、痛みのような感覚さえ感じていた。
「・・・如何致します、青月殿?」
シーちゃんが問うて振り向いてみれば、光元は顔に笑みを浮かべてコーちゃんを見ている。そしておもむろに顔の前で右手の人差し指を立てて、一言。
「ちゃんと一緒に帰らないとぉ・・・『コーちゃん、だぁめ❤』」
その途端に、妖気の放出がピタリと止まった。
「・・・・・・っの、クソ光元っ!!」
怒髪天を衝き、コーちゃんは声を荒げて人も殺せるような形相で光元を睨みつける。
「言霊(ことだま)ですね・・・」
そんな様子をシーちゃんは呆れなのか感心なのか、微妙な表情で眺めていた。
『言霊』とは名を縛る術であり、光元は二人を、それぞれ『黄金色だからコーちゃん』『白色だからシーちゃん』と名をつけて配下としている。名のつけ方は主人の自由だが、小動物に付ける愛称の感覚で名づけるのはおそらく津々浦々何処を探しても光元だけだろう。ちなみにその名が、名づけられた者の性状に近ければより効果が高まるのだが『体で名を表された』彼等の名は存外効力が強いという、いじめに近い現状が存在している。
「そんなに睨まないでよコーちゃ〜ん」
「・・・・・・コーちゃん言うな・・・」
反論の声音に恐ろしくドスが効いている。本気で怒っているらしい。
「私がお付き合いしますから、コーは返して差上げた方がよろしいのでは?」
さすがに哀れに思えたのか、見かねたシーちゃんが勧めてみる。コーちゃんの思考回路は単純で直線に近いので、彼の心配事などシーちゃんは重々承知だった。『たかが菓子』も、彼にとっては『されど菓子』であることは・・・。
「んー、シーちゃんに言われちゃあねぇ・・・。でも龍の姿で帰ったら京の皆に騒がれるしなぁ・・・」
光元は少し考える素振りを見せ、
「じゃあ、人の姿で帰るっていうなら・・・ってあれ?」
振り向いた先に既にコーちゃんの姿は無く、砂埃だけが立ち込めていた。
「書け去ってしまいましたよ、猛烈な勢いで」
「さっすがコーちゃん!速いねぇ・・・」
惜しむことなく、ましてや笑みを深める光元。シーちゃんは密かに眉をひそめた。光元がこの表情を浮かべる時、何か裏があるのは過去の経験で承知済みだ。光元は察したのか、僅かに彼を一瞥し、また視線を戻す。