設定・外伝集

□元旦の屋根の上
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「…今、内心『ざまぁみろ』とか思ったでしょ!」
「べ、別に!ただ陰陽寮の奴らは無駄なことやって、健気だなぁ、と」
「健気なお前等いい気味だ、と」
「そうそう…って、そこまで思ってな―――」
「ほらやっぱり!ひっどーい!コーちゃんひっどーい!」
「違うっつってんだろーが!!」

クワッと牙を剥いて否定するコーちゃん。が、光元はじとりとした眼差しで睨み付けたまま視線を離さない。コーちゃんはたじろぎ、思わず足を一歩引いていた。
しばし間があって、ふと光元の右手が上がる。呪符を掲げられるかと身を固くするコーちゃん。が、予想に反して右手は光元の背後を指差すに留まった。

「コーちゃん、あの山の上までつれてって」
「は?」
「僕もういい加減寒いの嫌なの!でも今まで待ってたのに見ないまま終わるのも何だか癪だし…。だからあの山から見て、都の誰よりも早めに初日の出拝んどく」
「陰陽寮から頼まれてんじゃなかったのか?」
「別に頼まれたの僕だけじゃないしね。いざとなったら適当に繕うから。だからつれてって!寒いの!さーむーいーのー!」
「判った、判ったから口を閉じろ…」

深々とため息をつく。まるで子供のような主人だ、そう呟いてコーちゃんはふと気付く。自分の主人はまるでも何も、まだまだ子供なのだ、と。そんな子供が聖獣を五匹も率いて、しかも陰陽寮で職務をこなしているのだ。こんな主人でも、知らない所で苦労しているのかもしれない。
堪忍したように屈んだコーちゃんの背中に光元は嬉々として飛び付く。コーちゃんはその背中に違和感を覚えて眉をひそめた。

「…光元、お前異様に温(ぬく)いんだが?」
「うん。だって懐に温石(おんじゃく)入ってるもん」

温石とは文字通り温めた石で、今の時期に重宝する防寒道具だ。

「おま…っ、寒いっつてたろーが!」
「そりゃ部屋の中と比べたらずっと寒いし。しかも待つのめんどくさい」
「……」

コーちゃんは内心で訂正した。自分の主人は苦労なんてしていない。言葉巧みに人を使うからだ。

「さぁ、行・け!コーちゃん!」
「コーちゃん言うなぁぁぁぁ!!!」

一月一日元旦。寒空に怒号が響き、屋根を駆け出す青年の姿がありましたとさ。




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