設定・外伝集

□幼少綺譚〜白虎奏伝〜
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その島は高い崖に八方を塞がれている。だが一ヶ所のみ内側へ続く洞窟があり、その奥には一族の住む町があった。

洞窟の縁に沿うように陸地があり、大岩を削って作られた家屋が並ぶ。外を囲む崖にも、内側にはいくつか城門があり、町を囲む壁がそのまま宮殿にもなっている。

船着場で船から降りた男達を、その親族や妻であろう女達が並んで迎えた。最前列にいるのは、その中でも特に凄まじい美貌を持つ女だった。
銀の腰まで届く長髪は先端を切りそろえ背中に流しており、肌の色は白滋。切れ長い左目の下にあるほくろが印象的だ。その女、着ているものこそ周りの者とたいして変わらない長衣。だが纏う雰囲気は、威厳とも恐怖感とも言える、見る者の背筋を粟立たせる何かを含む。流剛が厳格の中に優しさを含むのに対し、女は美しさの中に苛烈さを含む。その二人が、対峙する。

「今帰ったぞ、沙耶」
「知っている。遅いぞ、流剛」

凄絶な笑みを浮かべる女。この女こそ、流剛の妻、沙耶姫であった。

沙耶姫は軽く一つ息をつき、再び口を開く。

「銀珂(ぎんか)の『人化の儀』、つつがなく終わったぞ」
「任せきりで済まないな。で、銀珂は何処だ?人化出来るようになった息子は、父にその姿を見せてはくれぬのか?」
「ぬかせ、来ておるわ!」

おどけた調子で問うてくる流剛に、沙耶姫は笑いを込めた声で返す。

「お前に似た可愛い子だぞ?…銀珂!父が帰ってきたぞ!!」

沙耶姫が背後を振り向き声をかけると、子供が一人、女達の影から出てきた。


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