最奥の社

□重なる時も貴方思う
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「ぁ……っん」
一人用の寝台が、二人分の重圧にか細く軋む。切ない悲鳴にも聞いて取れるその軋みは、あるいは自分の胸の疼痛の苦しいばかりの訴えの声なのかもしれない。


……今から自分は、罪深い事を犯そうとしている。



まだ、戻れる。いや、戻れない。
もう、多分全て失っている。この男の誘いに乗った時点で、私は既に裏切っているのでしょうね、愛しい貴方を。

「はっ……ぁ」
やわやわと首筋から耳裏にかけてを舐め上げられ、思わず肌が粟立つ。悪寒に似た感覚が、全身に蹂躙(じゅうりん)していく。かと思えば、今度は肩口に鈍く広がる疼痛。立てられた犬歯に身がうずく。
背中から抱きすくめられる形で右の肩口に置かれた男の麗美な顔が、いらやしく笑んでいた。
この男の名など、自分は知らない。
只わかるのは、男が自分と同じ異形、それも技量高い守護神の位にある九尾だという事。そして通る鼻筋を携える端麗な采色、太陽の様に輝く黄金のざんばらの髪に、冷淡な蒼い瞳を有しているという事だけである。
悪戯っぽい大人の様な、あるいは大人っぽい幼子の様な、区別のしづらい顔立ちは、どことなく土黄に似ていると密かに白秋は笑った。しかし直ぐに笑みは氷付いた。己の置かれた状況に、嫌悪に似た感情が黒く喉元でうずいていた。嘔吐感が競り上がる。
眉根を寄せる白秋に、狐は只うっそりと笑むだけであった。白秋が横目で見やれば、男の澄んだ蒼天の如き瞳には、今や欲情の艶めきしか揺らめいていなかった。


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