発つ鳥跡を濁す

□第一章〜集合〜
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「・・・そっちは左よ。なんでそうなるの?」

美女は落胆の嘆息混じりに聞いた。すると男はきっぱりと、

「だってな、つい三刻前に同じこと聞かれた時は、太陽のあった方が右だったぞ」

「どういう物の見方をしているのですか」

そうたしなめたのは、美女とは真逆の位置に並ぶ、白銀の長髪と銀灰の瞳を持つ、女性と見まごうほどの美貌を持った青年だった。

「三刻もすれば、日が傾いているのは目で見ても判るでしょうに。無知蒙昧も甚だしいですよ」

「じゃあどっちが右で、どっちが左なんだよ!」

「南を向いた時、西に当たるのが右です」

「南ってどっちだ?」

「日が出る方から右・・・っと、右が判らなければ話になりませんね」

「・・・ケンカ売ってんのか?」

「いえ、事実を述べたまでですが…」

「二人共!!」

このままいけば確実に泥沼化する会話を打ち切ったのは美女の声であった。彼女は、ある料理店の前で立ち止まっていた。





「待ち合わせの場所はここよね?」

「ここに・・・ここに奴が・・・・・・」

黄金の髪の青年が低い声で何やら呟いている。声音からして相当苛立っているようだ。
それを両隣の二人が感じて顔を見合わせた直後、

「くぉーーーげん!!!」

周りの人々を思わず立ち止まらせるほどの大音量でそう吠えると、彼は引きちぎるのではないかと思われるほどの勢いで暖簾を押しのけて中に入って行った。

「・・・相変わらずやかましいですね」

「・・・全くね」

その後を残された彼らは、やれやれといったようにため息をついて後に続いたのであった。


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