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□紫煙様へ 捧げ小説
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66000打記念

『その者、唯我独尊』



「よこせ!」
「嫌だ」
「よこせったらよこせ!」
「嫌だって言ってるじゃん」
「るせぇ!さっさと渡せば済むんだよ」
「言われて渡すなら拒否しないよコーちゃん」
「コーちゃん言うなぁぁぁ!!」

喧騒、というよりいきり立つ声と嗜(たしな)める声が響く菓子屋『五方庵』。建物内の一端で、金髪の青年と若草色の狩衣を着た少年が睨み合っていた。

青年の方をコーちゃん、少年の方を青月光元という。

二人は机を挟んで睨み合う。その机には、ひとつの美味しそうな唐菓子があった。

「いいじゃねぇか!最後の一つくらい!」
「くらいじゃないから!コーちゃん食べ過ぎだから!一人で何個食べたと思ってるの?」

コーちゃんの延ばした手より先に、光元が菓子を奪取する。

「せめて他の人に食べてもらう!幸せは分かち合わないとね」
「へぇ、じゃあ俺を言霊から解放して幸せに…」
「却下」
「おまっ―――さっき言ってた事と違ぇじゃねぇか!」

思わず震えたコーちゃんの声に、もうひとつの声が重なった。

「ククク、お前ら面白いな」

明らかに自分達にかけられた笑声に二人同時に振り返る。
一人の男が店に入ってくるところだった。背は高く、五神で一番の背丈を誇るコーちゃんと大差ない。黒い前髪が右目を覆っている。露(あらわ)になっている左目は、赤。徒人(ただびと)と思えぬ相手を警戒し、光元は咄嗟に身構える。その様子に男は僅かに笑みを浮かべ、コーちゃんを見やった。

「黄龍、こんな場所にいるとは奇遇だな」
「おぉ!太一か!」

コーちゃんが両の手のひらを打ち合わせる。光元が拍子抜けして前につんのめった。

「…コーちゃん、知り合い?」
「あぁ、太一だ。本性は俺と同じ龍、昔馴染みだ」
「へぇ〜」

光元は警戒を解き、太一に向かって一礼する。

「はじめまして太一さん。僕は青月光元、陰陽師の端くれです」
「あぁ、よろしくな。ところでさっきの喧嘩騒ぎの元は?」
「あ、このお菓子ですよ、よかったら太一さん食べてください」

笑みを浮かべて光元が太一に菓子を差し出すと…、

「ちょっと待て!俺が食ってたんだからな!俺が食うべきだろうが!」

コーちゃんが口を尖らせる。太一は笑みを深くして光元から菓子を受け取った。

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