龍は雲に従う
□第五章〜対決〜
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「ねぇコーちゃ〜ん、この宿は接待が足りないよ。接待が!」
「ろくに金持ってる訳でもねぇのに、こんな高級宿に泊まれるだけでもすごいだろうが!おまけにタダで飯作ってもらって、酒は飲み放題!いいじゃねぇか、接待なんて」
「コーちゃん、飲みすぎだって」
その日の夜、光元とコーちゃんは『梅の間』で食事をとっていた。コーちゃんの周りには大量の徳利が転がっている。
巨椋池に身を寄せて以来の酒に嬉しくなったのだろう。
顔は赤く、誰が見ても、飲みすぎなのは明らか。だがコーちゃんは、酒を注ぐ椀を離そうとしない。光元はやや呆れ顔で、
「コーちゃん、ほどほどにしといてよ。これから仕事なんだから」
「あぁ?異形の主人脅して飲み食いするっていうんじゃ―――」
「違うから。脅しは仕事の効率促進の為。ほら、行くよ」
そう言うと、光元はコーちゃんの椀を引っ手繰った。
「てめっ…何しやが―――」
「行くよ!コーちゃん!」
途端にコーちゃんは口を閉じる。そして気分を害したような顔をしてしぶしぶ立ち上がった。やや足元が覚束無い。
「…都合のいいときに名前使いやがって・・・」
コーちゃんの悪態を、光元は聞かなかったフリをして聞き流す。そして要件を述べる。
「今回コーちゃんにやって欲しいことは・・・」
なぜか後半は耳打ち。内容を聞いて、コーちゃんは笑みを浮かべた。
「へぇ、なかなか楽しそうじゃねぇか」
「よし、じゃあ早速始めよう!」
こうして、光元とコーちゃんは『梅の間』を出て、階段を下りていった。
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